禍々

文字数 860文字

 近づいてくる、数えるのが面倒なほどに沢山の敵。
 あと10数分でそれらが到達するであろう場所に、古谷が認めたくないソレ、はあった。

 数十メートルごとに、人の反応。
 動かない。
 それが、均等に広い場所に並んでいる。数にして、100。
 縦に10、横に10。
 周りに他の、反応はない。何もない。人型も、歩兵も。

 迎え撃つ歩兵、と思うにはあまりに綺麗に並んでいる。
「これ、何だと思う?」
「………………………………………………」
「青薔薇姫?」
 その時、古谷は過去に感じた事の無いモノを、人型の中で繋がった先から、感じた。


 永久に溶ける事の無い氷。
 何もかも焼き尽くす炎。
 明るすぎて何も映さない光。
 深すぎて慣れる事の無い闇。
 その全部で、そのどれでもない、純粋で、混沌とした、何か。


 あまりに強すぎる何かの感情だ、と気づくには数秒かかって、その間にもう彼女は動き出していた。
「ここから全力で走れば、五分で敵と遭遇できるな?」
 そう言う間にも走り始めている。
 すぐに速度が、まだ達した事の無い域にまで到達する。
 さらに、加速。
 古谷を乗せてきた中で、青薔薇姫がこんな風に人型を動かしたことは一度もない。加速でかかる身体の衝撃を耐えつつ、それでも問いかけに答えた。
「このペースなら三分ちょいで着くよ。射撃は?」
「すまない。今回は無しだ。こちらの放った物の振動で誘爆する恐れがある」

 ………………誘爆?

 その言葉に、固いままの青薔薇姫の声に、嫌な予感が膨れ上がる。
「まさか、アレは…………」
「愚かしい。人を滅ぼすのが、人などと。アレを私は認めない。だから、止めてみせる」
 はっきりした回答は貰えなかった。青薔薇姫の意識に、古谷はもう残っていないかもしれない。独り言のようなその答えに、その時、ようやく古谷は気が付いた。


 繋がった先から感じる、これは、怒りだ。


「今日は、少し無理をさせる。許せ、古谷」
 声が聞こえる。
 名前を呼ばれているのに、やっぱりそれは独り言のように聞こえた。

 何故だろう。今の青薔薇姫を、古谷は見てみたいと思った。
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