絶対の指令
文字数 1,399文字
青薔薇姫が中部軍の現状を、先日関東に報告した。
らしい。
というのも、その手段は不明なままで、翌日に本人から報告が済んだとの話があった。
もちろん、即日動きがあるとは思っていない。
ただ、関東軍が何らかの結論を出すまで、大阪には向かわず中部に留まろうと決めた。
放置しておけば、関東から何らかの動きがあるまであの戦場が繰り返されることをわかっていたから。
お互いへ相談も無く、約束も無い。
どちらともなくそう決めて、けれどはっきりとした言葉は交わさぬまま、二人は名古屋の市街から少し離れた山中に留まっていた。
その間、積極的に中部地域の戦線の情報を集めて、発生したのを見つけては飛び出し、中部軍が用意した『戦場』に敵が着く前に殲滅する……その繰り返しだった。もはや遊軍ですらない。完全に乱入しての戦果の横取り、である。
誰に褒められもしない。望まれもしない。
それでも、通り過ぎる黄色の少女が並んだ『戦場』の様子を見る度に感じる焦燥感が、そうさせずにはいられなかった。
青薔薇姫のみならず、古谷自身の中にも強くその感覚が生まれていた。
たとえクローンの彼女達が本当に人としては欠陥品で、そのために意思もなく身柄だけ都合よく利用される存在だとしても、それを己が認めるかどうかは別問題で。この不快な状況をただ認めないために、どれだけ無理をしてでも、いかなる方法を取っても、二人はその活動を止めるわけにはいかなかった。
どうしても認めるわけにはいかない。それだけは譲れなかったから。
「古谷、関東から直通通信が入っている」
そんな日々が数日続いた頃、戦場から戻ってきて人型から降りた青薔薇姫が、装甲車を見てそう言った。
中を見ることもなく言われたけれど、疑うこともなく頷いて古谷は車の中に設置されている通信機の方へと向かった。
通信機には、確かに着信の知らせが入っている。
「はい。関東軍直属・独立支援型人型機部隊の古谷です」
「関東軍情報部の片倉という。関東軍より特殊任務の伝達をしたい」
通信こそ暗号化され装甲車に送られているものだが、ここに届くまでには確実に中部軍の通信中継基地を経由している。
暗号化といったって絶対ではない。
関東軍のコードを使用している通信だが、それを中部軍が知らないとは限らないし、解析だってそこまで難しくはないだろう。
「盗聴されている可能性が高いと思われますが」
「かまわない。承知の上だ」
だから一応懸念は伝えた。相手が情報部である時点でこんな助言など余計なお世話だろうことはわかっていたけれど……片倉からこう言い切られて、古谷は嫌な予感がした。
このタイミングで、情報部の人間からの通信。
しかもその内容は中部軍に聞かれてもいい何か、だなんて。
それをわざわざ自分たちに通信してくるなんて。
結果が決まった、としか思えない。
「関東軍、並びに甲信越軍・近畿軍の上層部の合議の結果、現在の中部軍機能を一時的に凍結、全権をしばらく甲信越軍が用意した担当者の管轄下に置く事となった。間もなく甲信越軍の担当者がそちらに向かう。その前に、君達にやってもらいたい事がある」
拒否権はない。
「はい、何でしょう?」
「向日葵姫関係の研究施設、その探索及び完全破壊だ……破壊時の手法と被害内容は一切罪に問わない。但し『残すな』。今すぐに、全てを完全に壊すようにというのが上の指示だ……やれるな?」