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文字数 1,139文字

「それは……さすがに」
「かなり無理なことを言っているのは解っているよ。しかし、君達の今までの戦闘データによる計算では充分現実的な戦略であるとの結論が出たのだ。君達はどの戦場でも損傷率が非常に低い。移動しながらの転戦も充分に可能、とな」
(絶対、青薔薇姫のせいだ。人外な機動性をしてるから)
 低いどころかほぼ0では、確かにその程度出来そうなんて机上の空論を展開されても不思議じゃない。不思議じゃないが本気で結論づけるとか関東の上層部もどうかし過ぎている。
 脳内で誰に対して向けて良いものか分かりかねる怒りを煮えさせつつも笑顔のままの古谷に上官は続けた。
「単機による任務になる。また用意可能な人員は君らのみだ。戦況が安定し好転したとて、その後にすべきことも多いのでな。物資の補給や必要な物は移動先で優先的に手に入るように手配はする。そうでなくとも君らはすでに中隊長クラスだから、それほど困りはしないだろうが」
 地位で言えば、一個中隊を率いていてもおかしくない。
 なのに現実に与えられる指令は単騎による他管轄地域への転戦。
「話によれば、君達は自分で人型の整備も行っているらしいな。なら大丈夫だろう」
 一月の間に、青薔薇姫のみならず古谷まで、整備兵と同程度の整備を身に着けてしまっていた。でもそれはそんな指令を受けるためじゃない。己の生存率と人型の状態は比例すると古谷が認識したからだ。
「拒否は許さん。やってくれるな、青薔薇姫、古谷疾風」
「…………わかりました」
 古谷は答え、青薔薇姫は頷いた。
 軍からの逃亡は重罪。場合によっては問答無用の銃殺刑。許すも何も、成功率の低い行為に命をかける気がない古谷に選べる答えなど一つしかない。
(なんでこんなことに)
 考えるものの答えなど見つからない。

 
「皆が期待しておるのだよ、英雄の登場を。関西にも君らと同じく獅子奮迅の活躍している者は何人かいるらしいが、私は君らが英雄であればいいと思っている」
 その後いくつかの伝達事項などを終え、二人して部屋から出ようとした時、そんな言葉が掛かった。


 誰が、英雄?
 この薄汚れた、禍々しい存在が?


 心の中でこっそり自嘲して、隣にいる相棒の様子を伺い、古谷は驚く。
 青の孤高の少女、本人曰く『有り得ない』彼女は、まるで今の彼の気持ちを代弁するかのような…………心の中の古谷と同じく、自嘲の笑みを顔に浮かべていたのだ。
 彼の視線に気が付いた青薔薇姫は古谷を見てその表情を消す。
 何もかもを知り尽くしたような、彼女が最も浮かべることが多い顔になる。
「英雄、ね…………少なくとも、私はなれないな」
「そんなの……僕だって!」
「そうか? お前にはその資格があると思うが」
 そんなことはないと、古谷はぶんぶん首を横に振った。
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