進化

文字数 1,298文字

 古谷と青薔薇姫は、その現実にただ困惑していた。
「……ねぇ青薔薇姫。これはいくらなんでも、冗談じゃないの?」
「いや、現実だ。予想外ではあるが」
 久しぶりに人型の性能を検査していた。
 運用に必要な整備はいつも最大限行っているし、事実上いつも人型の能力を最大に引き出している。そうでないと、青薔薇姫の操縦に追いついていかないからだ。
 ただ、人型の性能そのものは別問題で、これはかなり大掛かりな設備での検査になるため、今の部隊になってからは一度も行っていなかった。
 人型は生体兵器であることもあり、連続して使用し続ければ生体部分が『疲労』をするし『摩耗』もする。だがそれは分かりやすく出るようなものとは限らず、整備上は問題なくとも蓄積した疲労によりある日突然に動かなくなるなんてことは珍しくない。動きが鈍る程度ならばまだ良くて、疲労骨折や筋繊維の断裂などが戦場で起きれば搭乗者の命に関わる。
 ただ、最も詳細な検査はかなり大掛かりな設備での検査になるため、今の部隊になってからは一度も行っていなかった。
 今回訪れた甲信越軍が陣内にその設備を所有していたため、借りたのだが。

 長年、青薔薇姫により細部に渡って改造されまくっているとはいえ、基本は通常の人型である。他の人型乗りが乗っているそれと変わりはない。
 この検査の目的は、性能面での負荷がどれだけ溜まっているのかの調査だった。
 かなり過剰労働させている自信があるので、古谷の予測でも生体部分への負荷は危険値まで溜まっているはずだった。

 しかし、結果は違った。
 彼ら専用の青い人型の状態は、新品の人型並み……どころか、彼らが以前に見た未使用時の性能の倍近い位の数値で示されていたのだ。一部すでに計測器がMAXを振り切って表示出来ない状態の所すらある。
 そんな改造、した覚えはない。というか、やろうとしても、出来ない。
 表面的ならまだしも深部生体部分への干渉は日常的にしている整備の範疇から大きく逸脱している。専門の施設で専門家が行うべきものであり、古谷に出来る訳がない。その辺は人への医療行為と同様だ。
 青薔薇姫もどうやら心当たりがらしい。
「なんでだろう?」
 首を捻りながらも、周りに他の人間が居なくて良かったと古谷は思う。こんなものを横から見られたら、一部で言われている「青の機人=軍の最新鋭機」疑惑を肯定するようなものだ。
 まさか実際は青薔薇姫があの部隊に所属していた期間ずっと出撃できない彼女と一緒に待機させられていた、最新鋭どころか二世代は前の旧型機だなんて誰が信じてくれるだろう。
 機内にある型番から古谷はそれを知っているが、数値を見せてから型番を確認させたって偽装を疑われそうである。
 噂は勝手に広がるものだが、半端に確証のある噂は厄介だ。
 青薔薇姫が真面目な顔をして言う。
「そうだな……成長しているとか」
「そんな、いくら生体兵器だからって……あ、この前の温泉は?」
「あり得ない話ではないな」
 それにしたって、とんでもない結果だった。
 この結果をどう扱うか……二人は施設内に今は誰もいないの良いことに、しばらくとりとめなく話し続けるのだった。
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