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文字数 1,757文字

 最終的に気にしない、という事にした。
 原因ははっきりしないし性能が落ちているよりはマシだという結論に達した。専門家ならまだしも二人は一兵士であるため、運用に支障さえなければそれを仔細に調べようとまでは思わないし、そんな時間や余裕はない。
 数値が下がってるなら調べるが、上がってるなら利用するだけだ。

 だがそうなると、今度はこの最新の結果を元に改めて整備することが必要になってくる。
 今までの整備は今までの生体数値を基にしたもの。前提が変わったのに今まで通りで良いわけもなく、どちらかといえばそっちの方が大問題だった。

 元々、青薔薇姫の人型は他の人型よりも装甲を薄くしてある。
 これは古谷が乗る前からだったらしいが、今は関東にいた頃より更に薄い。
 機体の限界を超えた操縦が可能な青薔薇姫のもたらす動きに、通常の装甲では防御力以上に重みや厚みが与える弊害の方が大きいと青薔薇姫が判断したためだ。
 削る前、彼女は古谷へ確認してきたが、二つ返事で了承した記憶がある。
「でもこうなってくると装甲そのものが邪魔だよねぇ」
「しかし、損傷の可能性を考えると外す訳にもいかない」
 今は場所を移して、装甲車の中。検査を終えたばかりの人型収納後。
 資料を並べて話し合う。
 今までは装甲を削ってすら機体の性能が青薔薇姫の操縦に追いつかないので、本気で操縦は出来なかったらしい。それなのに、今回機体性能のほうが追いついたとわかった。青薔薇姫は今まで通りでも構わないと言ったけれど、古谷としては彼女がより楽に操縦できる方が良い。
 そうなると、今の装甲板ですら重いのだ。
 けれど装甲の下はほぼ生体なため、完全に外せばいくら直接攻撃を食らわなかったとしても飛んできた塵や礫、建物などとの擦れなどから微細なダメージを戦闘の度積み重なるのは確実だった。
 人間が爆発も伴う戦場で、素っ裸で戦っているのと変わらない状態になる。
 それはまずい。
「まいったね。これ以上装甲は削れないし」
 今ですら、限界ギリギリの厚さ。これを取ると、火気の使用すら危うくなる。
 ミサイルの反動はどうしたって機体に伝わるし、熱源でもあるため素肌で触れれば熱に強い人型の肌とはいえ火傷だってあり得る。
 古谷の仕事は狙撃のみなので銃器を外されてしまうと本当に同乗しているだけになりかねない。長距離狙撃は敵の総数を削るために有効なのは変わらないので、それは避けたかった。
「しばらくは今まで通り戦うが、この性能では加減する方が大変そうだ。どうりでここに来るまでの道のりでは動きが伝わりすぎていたわけだ。逆に疲れる」
 青薔薇姫が珍しくぼやいている。
 一体、彼女自身の限界は何処にあるのだろう。常々不思議に思う、古谷である。

「人型にも服とかあればいいのにね」
 それは、なんとなく古谷が発した一言。
 丸出しが危険ならば人のように全身に服を纏えれば多少は変わるだろうに、と思った子どもっぽい思考からきていた。

 はっと青薔薇姫が動きを止める。
「……成る程、その手があったか」
「え、ちょっと、青薔薇姫? 今のは冗談で……」
「いや、いい考えだ。ちょっと出かけてくる。明日には戻る」
 そのまま青薔薇姫はいなくなってしまった。甲信越軍の陣地から消えた彼女がどこに向かったかは不明だったが、古谷はその不在を隠すことに終始した。
 翌日まで戦闘が無かったのは、まさに奇跡といえるだろう。


「……いつも思うけど、どこから?」
 翌日の朝、起きた古谷の目に映ったのは。
 全身の装甲板を外して、代わりに真っ青な服を全身に纏った彼らの人型。
 近寄ってよくよく見てみると服は布ではなく、ものすごく細い金属製の繊維で織られたもののようだった。単純な防御力でいえば、前の装甲よりも隠れる部分が増えたため、上がっているだろう。
 軽く触れた限り薄いけれど強度は十分なように思える。防刃繊維の一種なのかもしれないが、古谷の知るそれよりもずっと細いそれが何重にも重なって出来ているようだ。
 軽く風になびく、金属製の服。
「余りモノだ。丁度サイズも良かった。これで全力が出せるな」
 古谷の言いたい事にはまったく気付かず、青薔薇姫がスッキリしたような顔で操縦席から古谷を見下ろして言う。
 ああもう何でもアリなのね、と古谷はその場で脱力した。
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