鳥は思う

文字数 1,091文字

 調べれば調べるほどに出てくる、目を覆いたくなるような現実。
 思い出して、古谷は一人ため息を漏らす。

 感情が高ぶったせいか、あるいは限界を超えて人型を操作していたせいか、珍しく態度からも疲れを見せていた青薔薇姫を、機体の洗浄後に温泉へ追いやり、その間は一人で情報収集をしていた。
 疲れているという意味では自分も入りに行きたいのは山々だったが、どうしても気になって仕方なかった。
 それに、中部軍の深層に侵入しての情報収集である。
 いくら関東軍の大佐であっても無許可のそれがばれたら極刑どころではない。もちろん見つからない自信あってこその行為だが、わざわざ共犯者を増やす事も無い。

 そこで得た情報は、想像以上の過酷な現実だった。

 住民に課せられた、他の地域の倍近い税。
 払えなければ即刻逮捕され、街の発展維持のため強制労働を強いられる。昼夜問わずの労働に、毎日何十人も死んでいる。
 あの向日葵姫は、遺伝子の突然変異で生まれたらしい優れた人型乗りの適性を持つある少女を、青薔薇姫の言う研究所がクローン技術により人工的に量産した、そのシリーズだった。向日葵姫という名前はシリーズの名前で、個人名ですらなかった。
 そして中部軍は、基本は向日葵姫を人型乗りとして登録。反抗や余計な思考をさせない為、そして優れた戦果を出させる為に薬物投与による調整を常に行って運用。使えなくなったら他のクローンに入れ替えていた。古谷達が出会った向日葵姫自体、記録上は何代目かの彼女だという。
 また向日葵姫の生産が安定した後はずっと、中心街から離れた場所で発生する戦場では、主に彼女のクローンを戦場に立たせた戦術をとっていた。
 全てが、一部の恵まれた者達が快適に暮らすため。


 反吐が出る話だ。


 もちろん、古谷だって生きるためには手段を選ばずにきた方だろう。
 普通の、曰く「善良」と総括されるような人々に比べて、汚れきっている自分をよく知っている。他者を責められる立場じゃない自覚はある。
 その自分でさえ、このやり方は、嫌だと思う。

 いや、自分だから、なのか。

 名古屋に入る前に出会った金の髪の少女を思い出す。

 重なる。
 思い出す。

 白い壁、白い天井、白い人。


 あの子は、明るく笑っていたのに。
 こんなに酷い扱いを受けていた。
 いや、酷い扱いであるということすら知らされないままでいるのかもしれない。空を知らない籠の鳥は、そこが狭いという認識すら出来ないのだから。
 何も知らないままで籠の中、役に立たなくなれば捨てられ替えられ。


 身勝手ながら……ここでようやく、古谷は青薔薇姫の怒りの一部を理解できたような気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み