跨線橋

文字数 620文字

ある日、僕が毎日通る跨線橋の丁度真ん中あたりに、花や飲み物などが置かれていた。
昨日のニュースで報道されていたが、その場所から線路に落ちた女性がいたらしい。
多分、その人の友人が供えたものなのだろう。

原因が事故だったのか自殺だったのかまでは、報道されていなかった。
世間ではありふれた事件なのかも知れない。

偶々その時の僕は、3年間交際していた彼女に振られて、感傷的になっていたのだ。
そのせいなのか、僕はその場所が妙に気になってしまった。

そして通りすがりに足を止めて、供え物の置かれた辺りの欄干に手を掛け、下の線路を覗き込むようなことをしてしまったのだった。
それがいけなかった。

――ここから落ちた女の人は自殺だったのかな?
――僕みたいに、誰かに失恋してしまったのだろうか?
――だからと言って、死ぬことはなかったのに。

漠然と勝手なことを考えていた時、背後から誰かが僕の耳元で囁いた。
『だったら、あんたが代わりに落ちてよ』

その途端、僕は強い力で後ろから押され、欄干を乗り越えて下に落ちそうになる。
そして誰かが抵抗する僕の背中を、グイグイと押してきたが、振り返る余裕がない。

必死で欄干に掴まり、何とか落ちずに済んだ僕は、力尽きて欄干にもたれて座り込んでしまった。
少し落ち着いて周囲を見回しても、そこには誰もいない。

そのことに愕然とする僕の背後から、また誰かが囁いた。
『どうして落ちてくれなかったのよ』
僕は恐怖に駆られ、後ろも見ずにその場から逃げ去った。
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