犬の散歩道

文字数 452文字

早朝5時。
今日も日課の、犬の散歩に出る。
まだ日差しは強くないが、蒸し暑さに辟易としながらいつものコースを歩いて行く。

近所の公団住宅の前まで来ると、車道に何かが貼り付いているのが見えた。
遠目に見ても、自動車に轢かれた鳩の死骸と分かる。

――朝から嫌なものを見たな。
そう思いながら通り過ぎると、後ろから「ほう」という音がした。

振り向くと、道路に貼り付いていた鳩が、首をもたげてこちらを見ていた。
鳩は車道に貼り付いた身を、引き剥がすようにして起き上がると、「ほうほう」と鳴きながら近づいて来る。

やばい!――と思い、犬を急かせて家路を急いだ。
漸く追って来る鳩を引き離し、家の近所のマンションの前まで来ると、前に缶ビールの空き箱が落ちていた。

通りすがりにふと見ると、箱から白い手が出ている。
そして箱の中から女性の顔が覘いていて、私を見ると嬉しそうに笑い、ごそごそと外に這い出して来る。

慌てた私は、箱に興味津々の犬のリードを無理やり引っ張って、その場から駆けだした。
最近、犬の散歩道がとても不穏で、困ったものである。
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