文字数 514文字

「この袋の中の物を、一つ差し上げよう」
私が道を歩いていると、背の低い老婆が近づいてきて言った。

――この人何を言ってるんだ。
老婆は手に持った小さな袋の首を掴んで言った。
「さあ、遠慮なく。とてもいい物ですよ」

私は少し怖かったが、私を見上げる老婆の眼を見ると、誘惑に逆らえず袋に手を入れてしまった。
見た目は小さな袋だったのに、中はどれだけ広いのか、袋に触れる感覚が伝わって来なかった。

私は固い物を一つ握ると、袋から手を引き抜いた。
その時、手の甲に纏わりついて来る感覚が残った。

引き抜いた私の手には、キラキラと光る宝石のような物が握られていた。
「おや。大きなダイヤモンドを取りましたね」

――ダイヤモンド?本物?だとしたら、何カラットあるんだろう。
僕が喜ぶのも束の間、老婆は悲し気な顔をした。
「おやまあ。一つと言ったのに、二つも取り出してしまったのね」

その時、手の甲から妙なものが顔を覗かせた。
そいつはトカゲのように、四つん這いで私の腕を這い上り、肩口まで登って来る。
そして口を広げた。

その口は、私の顔よりも遥かに大きかった。
口の中には、ギザギザ大きな歯が生えていて、3枚ある舌が私の頬を舐める。
――ああ、今からこいつに食べられるんだ。
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