煙突

文字数 486文字

家の近所の坂道から、海が見える。
その手前に広がる街並みを貫くように、大きな煙突が立っている。
しかし煙突から煙が出ているのを、これまで私は見たことがなかった。

ある日、坂道を下っている時にふと見ると、煙突から煙が飛び出した。
煙は一塊だけで、後からは何も出てこない。

煙はもやもやと形を変えながら、空に散らばることもせず飛び去って行った。
次が出てくるかと思い、その場に立って暫く見ていたが、それきりだった。

何日か経った後、また坂道を下る時に煙突を見た。
煙は出ていない。

「あの煙突のある工場では、何を作っているんだろう」
何気なく呟くと、後ろから声がした。

「あの工場では、この世の災厄を作っているんだよ」
驚いて振り向くと、とても背の高い男の人が立っていた。
その人は礼服をきちんと着て、手にとても長いステッキを持っていた。

「おお、今度はとても大きな災厄が出来たようだ」
背の高い男の人は、遠くを見ながらそう言って、とてもうれしそうな顔をした。

私が振り向くと、煙突からモクモクと煙が噴き出していた。
血のように鮮やかな色の煙は、途切れることなく次々と噴き出してきて、空を覆いつくしていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み