一二三神社

文字数 1,568文字

僕たちは今、クラブの夏合宿で、海辺の町に来ている。
どうしてわざわざ、時間とお金をかけて海まで来るかというと、恒例だからだそうだ。
まあ、練習は午前中の気温の上がらない時間で終わって、午後は自由時間という、半分旅行みたいな合宿なので、文句を言う奴はいないけどね。

合宿所の食堂で、昼食を食べ終わって雑談している時、お調子者のBが言い出した。
「なあなあ、ここの裏手に神社があるじゃん。あそこ行ってみねえ?」

「神社あ?行って何すんの?」
Cが反論した時、僕らの会話を聞いていた、食堂のおばさんが会話に割り込んできた。

「あんたたち、一二三(ひふみ)神社に行くの?」
「ひふみ神社?変な名前っすね」

Dが言うと、おばさんが即座に咎める。
「罰当たりなこと言っちゃだめ。ここいらの氏神様なんだから。それよりね。神社に行くのはいいけど、参拝の順番は絶対間違えずに、きちんと守らなきゃだめよ」

「順番すか?」
「そう、順番。一二三神社にはお社が3つあってね。鳥居を潜って正面が壱の社、右手が弐の社、そして左手が参の社なの。だから、必ずその順番通りに参拝しないといけないの。それから、鳥居を潜ったら、必ず全部の社を参拝してね。絶対よ」

「もし守らなかったら、どうなるんですか?」
僕が面白半分で訊くと、おばさんは深刻な表情を作った。
「はっきりとは言えないけど、とても恐ろしいことが起こるのよ。だから絶対守ってね」
そう言い残して、おばさんは厨房に戻って行った。

おばさんの姿が消えた途端、僕たちは顔を突き合わせて悪だくみを始めた。
何しろ、プチ反抗期の中学男子である。

「違う順番で回ってみる?」
Bが言う。

「だったら丁度5人いるし、一、二、三の順番以外の、5パターン全部クリアできるんじゃね?」
「出た。数学オタク」
Eが提案すると、すかざすBが茶化した。

「やっぱ止めとこうよ。おばさん怖い顔してたし」
Cが言うと、Dも同調した。
「俺は面倒くさいからやらねえ」

「何だよ。もしかしてビビってんの?だっせえ」
Bがばかにするように言ったが、それでもCとDは頑として首を縦に振らなかった。

仕方がないので、僕たちは3人で神社に行くことにした。
鳥居の外から見ると、確かに正面と左右に小さな社が設置されている。

「1人ずつ入ってみようよ」
Eが提案すると、すかさずBも賛成した。

「じゃあ、3人別々の順番で回ってみる?」
僕が言うと、Eは賛成したが、Bが少し考えた後、
「俺は1個飛ばしてみるわ」
と、お茶らけて言った。

「それはさすがに拙いんじゃないかな」
僕はBを嗜めたが、意地になってしまって、頑として引かなかった。

仕方がないので、Eと僕は回る順番を相談する。
「僕は一、三、二の順番で回ってみるよ」
「じゃあ僕は、二、一、三ね。A君、最初でいい?」
Eに言われて頷いた僕は、早速鳥居を潜った。

正面の社には確かに『壱』の文字が書かれている。
左手は『参』、右手は『弐』だった。

順番に拝んだ僕は2人の元に戻った。
しかし何も起きない。
それを見たEは安心したようで、さっさと鳥居を潜って中に入って行った。

「あいつ何か起きないか、お前で試したんだぜ。きっと」
BがEの後姿を見ながら、吐き捨てた。
2人は日頃から、あまり気が合わないのだ。

Eが戻って来ると、今度はBが中に入り、弐の社と参の社だけを拝んでさっさと戻って来る。
結局3人とも何事もなく終わったので、僕たちは拍子抜けした気分で、合宿所に戻った。

翌朝。
「A君、起きて」
Eの泣きそうな声で、僕は目覚めた。

眠い目をこすりながらEを見た僕は、仰天してしまった。
Eの右肩から頭が生え、首から腕が生えていたからだ。

慌ててBの様子を見る。
Bの首は、消えてなくなっていた。

その時初めて、僕は自分の体に違和感を覚えた。
よく見ると、右腕と左腕が入れ替わっていた。
そうか。参拝の順番通りなんだ。
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