生命保険

文字数 665文字

最近売上が思わしくない。
ネットのせいだよね。
昔は営業トーク1つで、いくつも契約を取れたのに。

保険の勧誘は、お客さんとの信頼関係が大事なのよ。
なのに、近頃ではピンポン押しても、間に合ってますって言われる。
やりにくいったら、ありゃしない。

テレフォンオペレーターなんて、この年じゃ無理だしね。
やっぱ今まで通り、地道に営業するしかないわよね。
生活も掛かってるし。

マンションの1階手前の部屋のピンポンを押してみたら、意外とすんなり応じてくれた。
中から顔を見せたのは、なんだか顔色の悪い、存在感の薄い男の人だった。

この人、昼間から部屋にいるということは、働いてないのかしら。
だとしたら、望み薄かもね。

そう思いながらも、手頃な商品を勧めて見る。
結構真剣に話を聞いてくれる客だ。

意外と当たりかも。
私は心の中でほくそ笑む。

補償内容の説明に入ったら、今まで以上に食いついて来た。
これは契約まで行くかも。

「事故補償というのは、どんな事故でも当てはまるのですか?」
「そうですね。加入頂いている方の故意でない限り、大体の事故は対象になります」

「そうですか。それは安心ですね。ところであなたは、この保険に加入されているのですか?」
出た。よくあるパターンだ。

「もちろんですとも。自分が安心して加入していない保険を、お客様にお勧めすることはできませんでしょう?」
満面の営業スマイルで私は答えた。

「そうですか。安心しました」
そう言って、その男の人は怪物に変身した。

「俺に食われても、補償は出るんだろ?よかったな」
えっと。こういうのって、補償の対象になるんだっけ。
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