嫌な奴
文字数 1,152文字
そいつは、ある日突然現れた。
部屋の隅にちょこんと座って、こちらをじっと見ているのに気づいたのが最初だった。
そいつはとても小さくて、立ち上がっても10cmくらいの背丈しかなかった。
姿は異常に小さいことを除けば、普通の人間だった。
いや、普通ではなかった。
そいつは、とても嫌な顔をしていた。
どう表現していいのか分からない程、特徴のない顔なのだが、とにかく嫌な顔なのだ。
やがてそいつは、私の体のあちこちに纏わりつくようになった。
手で払い落とそうとしても、そいつの体を素通りするだけなので、多分霊のようなものなのだろう。
そして私以外に、そいつは見えないようだった。
そいつは面白がって、私の体のあちこちに纏わりついていたが、やがて肩の上に乗って、耳元で囁くようになった。
その声は、顔と同様にとても嫌な声だった。
聞いていると、とてもイライラして、段々腹が立ってくる――そんな声だった。
そいつが囁くのは、本当にどうでもいいようなことが大半だった。
部屋の隅に誇りが溜まっているとか、私が見ていたテレビ番組が下らないだとか、そんなことを耳元で延々と囁くのだ。
本当に腹が立ったが、私にはどうしようもなかった。
神社かお寺でお祓いをしてもらおうかとも思ったが、頭がおかしいと思われそうで、結局何もできない。
そんなある日、道を歩いていると、突然そいつが耳元で囁いた。
「あいつ、もうすぐ死ぬぞ。もうすぐ死ぬぞ」
そいつが指さしたのは、スマホを見ながら歩いている、学生風の男性だった。
その時右側から走って来た車に、その人は撥ねられてしまった。
「あ、死んだ。死んだ」
私の肩の上で、そいつはさも嬉しそうに囃し立てる。
そこ声がとても嫌で、物凄く嫌な気分になったので、私は無駄だと思いつつもそいつを払い落とそうとした。
しかしやはり無駄だった。
そいつは相変わらず私の肩の上で、嫌な声で囁き続けている。
「死んだぞ。死んだぞ」
うんざりした私は、肩に乗ったそいつに向かって呟いた。
「お前なんか、どこかに行ってしまえ」
するとそいつは、一瞬きょとんとした表情を浮かべたかと思うと、底意地の悪い笑顔を浮かべて囁いた。
「いいのか?本当にいいのか?どこかに行ってしまってもいいのか?」
「いいから、さっさと消えろ。もうお前にはうんざりだ」
するとそいつは言った。
「知らないぞ。どうなっても知らないぞ」
そしてそいつは姿を消した。
――最初から、こうすれば良かったんだ。
私は拍子抜けするような気分だった。
翌日、ニュースを見ようとテレビを点けた私は、驚きのあまり声を失った、
2人並んだキャスターの顔が、どちらもあいつの顔だったからだ。
声もあいつの嫌な声だった。
僕は恐怖のあまり外に飛び出した。
そして立ち竦んでしまった。
道行く人の顔が、全部あいつの嫌な顔に変わっていたからだ。
了
部屋の隅にちょこんと座って、こちらをじっと見ているのに気づいたのが最初だった。
そいつはとても小さくて、立ち上がっても10cmくらいの背丈しかなかった。
姿は異常に小さいことを除けば、普通の人間だった。
いや、普通ではなかった。
そいつは、とても嫌な顔をしていた。
どう表現していいのか分からない程、特徴のない顔なのだが、とにかく嫌な顔なのだ。
やがてそいつは、私の体のあちこちに纏わりつくようになった。
手で払い落とそうとしても、そいつの体を素通りするだけなので、多分霊のようなものなのだろう。
そして私以外に、そいつは見えないようだった。
そいつは面白がって、私の体のあちこちに纏わりついていたが、やがて肩の上に乗って、耳元で囁くようになった。
その声は、顔と同様にとても嫌な声だった。
聞いていると、とてもイライラして、段々腹が立ってくる――そんな声だった。
そいつが囁くのは、本当にどうでもいいようなことが大半だった。
部屋の隅に誇りが溜まっているとか、私が見ていたテレビ番組が下らないだとか、そんなことを耳元で延々と囁くのだ。
本当に腹が立ったが、私にはどうしようもなかった。
神社かお寺でお祓いをしてもらおうかとも思ったが、頭がおかしいと思われそうで、結局何もできない。
そんなある日、道を歩いていると、突然そいつが耳元で囁いた。
「あいつ、もうすぐ死ぬぞ。もうすぐ死ぬぞ」
そいつが指さしたのは、スマホを見ながら歩いている、学生風の男性だった。
その時右側から走って来た車に、その人は撥ねられてしまった。
「あ、死んだ。死んだ」
私の肩の上で、そいつはさも嬉しそうに囃し立てる。
そこ声がとても嫌で、物凄く嫌な気分になったので、私は無駄だと思いつつもそいつを払い落とそうとした。
しかしやはり無駄だった。
そいつは相変わらず私の肩の上で、嫌な声で囁き続けている。
「死んだぞ。死んだぞ」
うんざりした私は、肩に乗ったそいつに向かって呟いた。
「お前なんか、どこかに行ってしまえ」
するとそいつは、一瞬きょとんとした表情を浮かべたかと思うと、底意地の悪い笑顔を浮かべて囁いた。
「いいのか?本当にいいのか?どこかに行ってしまってもいいのか?」
「いいから、さっさと消えろ。もうお前にはうんざりだ」
するとそいつは言った。
「知らないぞ。どうなっても知らないぞ」
そしてそいつは姿を消した。
――最初から、こうすれば良かったんだ。
私は拍子抜けするような気分だった。
翌日、ニュースを見ようとテレビを点けた私は、驚きのあまり声を失った、
2人並んだキャスターの顔が、どちらもあいつの顔だったからだ。
声もあいつの嫌な声だった。
僕は恐怖のあまり外に飛び出した。
そして立ち竦んでしまった。
道行く人の顔が、全部あいつの嫌な顔に変わっていたからだ。
了