ストーカー

文字数 907文字

その男はストーカーだった。
男の左腕には、ぐるりと巻き付く蛇のタトゥーが施されていて、手の甲の部分で大きな口を開けている。
その図柄は、男の非常に陰湿で酷薄な性格を如実に表しているようだった。

男は、気に入った女の子が見つかると、執拗に後をつけたり、盗撮した写真を送りつけたり、夜中に部屋のインターフォンを鳴らしたりと、ありとあらゆるストーカー行為を繰り返す。
その行為は、男が対象の女の子に飽きて、次のターゲットを見つけるまで続くのだ。

M子という女の子は、男が特に気に入った対象だった。
それまでにも増して、執拗で悪質なストーキングを、男は彼女に対して行った。

男の行為は巧妙を極め、彼女が警察に相談しても、中々尻尾を掴ませないのだ。
そして警察に相談したことで男は激高し、より一層ストーキングをエスカレートさせていった。
可哀そうなM子は、日に日に精神を衰弱させていく。

やがて男の理不尽な怒りは頂点に達し、遂に一線を越えてしまった。
男はM子の部屋に忍び込むと、寝ている彼女を殺害してしまったのだ。

M子を殺す時、男は恐怖に震える彼女に向かって、何度もナイフを振り下ろしながら叫んだ。
「ずっと俺と一緒にいてくれよ」

M子の悲鳴を聞いた隣人の通報で警察が駆けつけた時、男は死体に跨って放心状態になっていた。
男はその場で逮捕され、裁判にかけられて、懲役に服することになった。
男の行為は悪辣だったが、初犯だったことから、わずか5年の刑期だった。

服役中男は、ひたすら従順な態度に終始し、反省の色を示していたが、内心はまったく違っていた。
早く刑務所を出て、新しい獲物を見つけたいという一心だったのだ。

従順な演技の甲斐あって、男は刑期を1年以上短縮して、刑務所を出ることができた。
そして早速、新しいストーキングの対象に目を付ける。
大学生の女の子だった。

しかし、男がその子の後をつけようとした時、突然左腕に強く締め付けられるような痛みが走った。
男が驚いて自分の手を見ると、タトゥーの蛇がM子の顔に変わっていた。

M子は両目を見開いて、恨めし気な声で男に訴えた。
「あなたの望み通り、ずっと一緒にいてあげたのに、どうしてあんな女の後をついて歩くのよ」
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