タイムカプセル

文字数 1,139文字

今日私たちは、久しぶりに母校を訪れた。
同級生は地元に残っている10数人、後はマスコミ関係者だ。

何故こんなことになっているかというと、同級生の1人ナオトが、今世間の注目を浴びているからだ。
ナオトはサッカー選手だった。
それも日本代表。

彼がテレビ番組で、中学の頃にタイムカプセルを校庭に埋めたと、ポロリと口走ったのが契機で、それじゃあ掘り出すところを番組にしようという安直な企画が立ち上がったらしい。
そして駆り出されたのが、地元に残っていた私たちということだ。

中学時代のナオトの記憶と言えば、不快なものが多い。
当時からサッカーの才能を認められていた彼は、それを鼻にかけて王様のように振舞っていた。

傲慢で、底意地の悪い性格だったナオトは、結構陰湿ないじめも行っていた記憶がある。
今はすっかり猫を被って、爽やかサッカー選手を演じているが、本性はどうだか分かったものではない。

そんなことをぼんやりと考えていると、同級生の誰かがタイムカプセルを掘り当てたようだ。
カプセルと言っても、実際は40cm四方のアルミ缶だ。

代表してナオトが蓋を開けることになった。
中からは、色々と懐かしい物が出てくる。
皆がワイワイ言いながら、次々と中身を取り出して確認し始めた。

「これ、ナオト君に宛てた手紙じゃない?ヒロユキって子から」
同級生の女子が、封筒のようなものをナオトに差し出しながら言った。

――ヒロユキ?
その名前が私の中の何かに引っかかる。

手紙を受け取ったナオトは、「何だろう」と笑いながら、中の便箋を取り出し、読み始めた。
『ナオト君。君がこの手紙を読んでる時、君が虐めた僕はもう死んでるよ。1人だと寂しいから、迎えに行くね。ヒロユキ』

読み終わったナオトの顔色が見る見るうちに真っ青になる。
そして手紙を放り出すと、周囲の人を押しのけて、物凄い勢いで走り去って行った。
その後姿を、同級生たちもテレビ番組のスタッフも呆然と見送る。

「ヒロユキって、確か中3の2学期に自殺した子じゃあ…」
同級生の1人が呟くのを聞いて私は思い出した。
確かナオトがしつこく虐めていた子だ。
自殺の原因は有耶無耶になったけど。
――何でその子の手紙がタイムカプセルに?

「この手紙、白紙じゃん」
同級生の1人が、手紙を拾い上げて言った。

しかし私はナオトが駆け去る時に、はっきりと見ていた。
手紙から何かが浮き出し、ナオトに絡みついて行ったのを。

***
ナオトは必死で駆けていた。
『迎えに来たよ』

後から追って来る声から。
『迎えに来たよ』

振り向いても誰もいない。
『迎えに来たよ』
それでも声は追いかけてくる。

その時突然目の前の空間に、黒い穴がぽっかりと開いた。
疾走する勢いでそこに飛び込んだナオトを、ヒロユキが両腕を広げて迎える。
『待ってたよ。ナオト君』
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