学校『こうちょうせんせい』

文字数 1,700文字

これも学校に(まつ)わるお話です。
その学校の玄関ホールには、歴代校長先生の写真が飾ってありました。
しかし何故か、3代目の校長先生の写真だけはありませんでした。

***
ヒナちゃんは、今年小学1年生になった好奇心いっぱいの女の子です。
授業が始まって2週間が経ち、漸く学校の生活に慣れた頃、ヒナちゃんの好奇心は抑えきれないレベルに達していました。
午前中の授業を終え、給食を食べたヒナちゃんは、そのまま下校せずに校内の探検に出発しました。

校内は不思議なものに満ち溢れていました。
1年生の教室は校舎の1階にあるのですが、ヒナちゃんは上の階に行ってみたくて、階段の方に行ってみることにしました。
階段下まで来て、上を見てみると、黒くて平べったいものが、階段に張り付いているのが見えます。

――あれって何だろう?
ヒナちゃんが首を傾げていると、頭の上の方から声が掛かりました。
「おや、君にはあれが見えるのですね」

ヒナちゃんが振り返って見上げると、背広を着てネクタイを締めた、細くて背の高いおじさんが立っていました。
「あれって何ですか?」

ヒナちゃんの質問に、おじさんはニコニコしながら答えてくれました。
「あれは『三つ棘』と言うものですよ。真ん中辺りに小さな棘が3本生えているのが見えるかな?」

ヒナちゃんは興味津々の眼をして頷く。

「他を踏んでも大丈夫なんだけど、あの棘を踏むと。あっ、言ってるそばから」
その時丁度階段を降りてきた高学年の男の子が、棘を踏んでしまいました。
すると『三つ棘』が急に暴れ出し、男の子は足を取られて、階段を踏み外して転んでしまいました。

「ほらね。ああいう風になるから、決して棘を踏まないようにね」
おじさんの言葉に、ヒナちゃんは大きく頷きます。

その素直な態度が気に入ったらしく、おじさんは言いました。
「君はとても素直で良い子のようだから、少し校内を案内してあげよう。ついておいで」

そう言うとおじさんは廊下を歩き出します。
ヒナちゃんは慌てておじさんの後をついて行きました。

少し行くと、廊下の天井に、小さな赤いものがへばり付いているのが見えました。
ヒナちゃんは叔父さんの服の袖を引いて尋ねます。
「あれは何ですか?」

おじさんは天井を見上げると、困った顔をしました。
「ああ、もうあれが湧いてくる季節になりましたか。ちょうどよい。妖務員が来たので、取ってもらいましょう」

ヒナちゃんが振り向くと、後ろから箒と塵取りを持った男の人が歩いてきました。
おじさんがその人に何か言うと、男の人が頷きます。

そして天井を見上げた男の人の顔の真ん中に、突然大きな穴が開いたのです。
その穴の中から手が伸びていき、天井の赤いものを捕まえてしまいました。

手はそれを持ったまま、顔に引っ込んでいきます。
手が完全に戻ると、男の人の顔は元に戻りました。
そして何事もなかったかのように、廊下を歩いて行きます。

ヒナちゃんはその一部始終を見て、目を丸くしました。
――学校って、何て面白い所なんだろう。

男の人が去って行ったのを見て、おじさんはヒナちゃんに言いました。
「さっきのは『三尸蟲(さんしむし)』と言ってね、授業中に居眠りしている子の首に吸い付いて、精気を吸ってしまう悪いものですよ。気を付けましょうね」
ヒナちゃんは、おじさんの言葉にうんうんと頷きました。

するとおじさんは、とても嬉しそうな顔で笑いました。
「君はとても素直ですね。今日はこれくらいにして、また今度校内を案内してあげましょう。それから、これは大事なことだから忘れないようにね」

そこでおじさんは言葉を切って、ヒナちゃんを見ました。
ヒナちゃんはおじさんの次の言葉を、興味津々で待っていました。

「校舎の裏に板で囲った場所があるから、絶対そこに入って、『痛い』と言っては駄目ですよ。分かりましたね」
頷いたヒナちゃんは、おじさんに尋ねました。
「おじさんは誰ですか?」

するとおじさんは腰を折って、ヒナちゃんに顔を近づけました。
両目は真ん丸に見開かれ、耳まで裂けた口元に笑いを浮かべています。
「おじさんはね、この学校の三代目の妖長(こうちょう)先生ですよ」
(作者注:ネットで調べると、『妖』という字は、『こう』と読めるそうです)
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