観覧車
文字数 1,059文字
ある夜、少し酔っぱらってアパートに向かっていた時。
近所にある公園のそばを通りかかると、いつの間にか観覧車が設置されていた。
――こんなの、何時できたんだろう?
そう思いながら通り過ぎようとすると、『恐怖の観覧車』という看板の文字が目に入る。
――『恐怖の観覧車』って何だよ?大袈裟な。
俺は腹の中でせせら笑った。
酔った勢いで、様子を見てやろうと観覧車に近づくと、入口に立っていた、制服を着た係員が俺に言った。
「いかがですか?とても怖いですよ。料金は1回300円です」
「本当に怖いの?」
俺は疑わし気に観覧車を見上げる。
大した高さもないし、そんなに怖い気がしない。
じゃあ試しに乗ってみるかという気になって、俺は係員に300円支払い、丁度降りてきたゴンドラに乗り込んだ。
ゴンドラはゆっくりと上がっていく。
外の景色はそれなりに綺麗だが、それ以外は何の変哲もない観覧車だった。
――何が怖いんだよ。降りたら文句言ってやろう。
俺がそう思った時、俺の乗ったゴンドラの、丁度真向かいを下っていたゴンドラの扉が突然開いた。
俺が、危ないな――と思った途端、ゴンドラから人間らしい影が這い出して来る。
それはゴンドラの屋根によじ登ると、俺の方を見た。
そして、ゴンドラからホイールに飛び移り、ホイールを伝ってこちらに向かって来るではないか。
俺が驚いて声を失ったのも束の間、今度は俺の乗ったゴンドラの屋根が、「ドン」と鳴ったかと思うと、上から誰かが顔を覗かせ、中にいる俺に向かって凄惨な笑みを向けた。
声を失った俺が外に目を向けると、周囲のいくつものゴンドラの扉から、人らしきものが、次々と這い出して、こちらに向かって来る。
そして頂上に達する頃には、そいつらは俺の乗ったゴンドラに鈴なりになっていた。
そいつらは一斉に、ゴンドラをドンドンと叩いたり、激しく揺らし始めた。
そしてゴンドラがギシギシと、嫌な音をたてる。
――助けて。
俺は床に伏せて必死で願ったが、まだ頂上を過ぎたばかりで、下までは時間がかかりそうだ。
そしてそいつらが叩く音は徐々に大きくなり、ゴンドラは益々激しく揺れ始めた。
――もうダメだ。
俺が観念した瞬間、ゴンドラの扉が開いた。
――下に着いたのか?
俺が後先も考えずに扉から飛び出すと、そこは奈落のような暗闇だった。
俺は叫び声をあげながら落ちていった。
***
気がつくと俺は観覧車の入口で、座り込んでいた。
「いかがでしたか?怖かったでしょ?」
係員が俺に手を差し伸べながら、満面の笑みを浮かべる。
――怖すぎるわ!!
以来俺は、二度と観覧車に乗っていない。
了
近所にある公園のそばを通りかかると、いつの間にか観覧車が設置されていた。
――こんなの、何時できたんだろう?
そう思いながら通り過ぎようとすると、『恐怖の観覧車』という看板の文字が目に入る。
――『恐怖の観覧車』って何だよ?大袈裟な。
俺は腹の中でせせら笑った。
酔った勢いで、様子を見てやろうと観覧車に近づくと、入口に立っていた、制服を着た係員が俺に言った。
「いかがですか?とても怖いですよ。料金は1回300円です」
「本当に怖いの?」
俺は疑わし気に観覧車を見上げる。
大した高さもないし、そんなに怖い気がしない。
じゃあ試しに乗ってみるかという気になって、俺は係員に300円支払い、丁度降りてきたゴンドラに乗り込んだ。
ゴンドラはゆっくりと上がっていく。
外の景色はそれなりに綺麗だが、それ以外は何の変哲もない観覧車だった。
――何が怖いんだよ。降りたら文句言ってやろう。
俺がそう思った時、俺の乗ったゴンドラの、丁度真向かいを下っていたゴンドラの扉が突然開いた。
俺が、危ないな――と思った途端、ゴンドラから人間らしい影が這い出して来る。
それはゴンドラの屋根によじ登ると、俺の方を見た。
そして、ゴンドラからホイールに飛び移り、ホイールを伝ってこちらに向かって来るではないか。
俺が驚いて声を失ったのも束の間、今度は俺の乗ったゴンドラの屋根が、「ドン」と鳴ったかと思うと、上から誰かが顔を覗かせ、中にいる俺に向かって凄惨な笑みを向けた。
声を失った俺が外に目を向けると、周囲のいくつものゴンドラの扉から、人らしきものが、次々と這い出して、こちらに向かって来る。
そして頂上に達する頃には、そいつらは俺の乗ったゴンドラに鈴なりになっていた。
そいつらは一斉に、ゴンドラをドンドンと叩いたり、激しく揺らし始めた。
そしてゴンドラがギシギシと、嫌な音をたてる。
――助けて。
俺は床に伏せて必死で願ったが、まだ頂上を過ぎたばかりで、下までは時間がかかりそうだ。
そしてそいつらが叩く音は徐々に大きくなり、ゴンドラは益々激しく揺れ始めた。
――もうダメだ。
俺が観念した瞬間、ゴンドラの扉が開いた。
――下に着いたのか?
俺が後先も考えずに扉から飛び出すと、そこは奈落のような暗闇だった。
俺は叫び声をあげながら落ちていった。
***
気がつくと俺は観覧車の入口で、座り込んでいた。
「いかがでしたか?怖かったでしょ?」
係員が俺に手を差し伸べながら、満面の笑みを浮かべる。
――怖すぎるわ!!
以来俺は、二度と観覧車に乗っていない。
了