カーヴミラー

文字数 853文字

うちの近くに、線路を挟んでそれぞれ反対方向に走る一方通行があり、高架橋の上下で両面通行の優先道路と交差している。
高架橋の高さが低いので左右の見通しが悪く、信号機もないので、時折出合い頭の事故が起きる交差点だ。

ある日駅に向かって歩いていて、その交差点に差し掛かると、カーブミラーが設置されていた。
――事故が多いから、警察か行政が動いたようだな。

そう思って横断歩道で一旦止まると、左から爆音を響かせて、黄色いスポーツカーが猛スピードで走ってきた。
歩行者がいてもお構いなしで、そのままのスピードで交差点を通過して行く。

時折近所で見かける車で、どんな狭い道でも猛スピードで走り回る、質の悪いドライバーだった。
――そのうち、とんでもない事故を起こしそうだな。
俺は常々、そのドライバーを苦々しく思っていた。

ある日その交差点まで来た時、丁度高架橋の上からカラスが飛び立つのが見えた。
何気なく目で追っていると、カーブミラーの前に差し掛かった途端、突然そのカラスが消えてしまった。

えっと思ってカーブミラーを見ると、鏡の中をカラスが飛び去って行く姿が見える。
俺は驚いて、カラスが見えなくなるまで、カーブミラーを凝視していた。

しばらく呆然としていた俺は、何が起こったのか確かめたくなって、道端の石を拾う。
そしてその石を、カーブミラーの高さまで放り投げてみた。

石の軌跡を目で追っていると、ミラーに移った瞬間に石は消えてしまった。
何が起こっているのか、訳が分からず、俺はふらふらと横断歩道を歩き出す。
今のは目の錯覚で、石が道路に落ちていないか、確かめようと思ったのだ。

その時、左手から急に爆音が近づいて来た。
反射的にその方向を見ると、あの黄色いスポーツカーが猛然とクラクションを鳴らしながら走って来るのが見えた。

――あ、駄目だ。はねられる。
俺は思わず目をつむったが、衝撃は来なかった。
車の爆音も消えている。

恐る恐る目を開けた俺は、咄嗟にカーブミラーを見上げた。
黄色いスポーツカーは、鏡の中の道を走り去って行き、やがて消えてしまった。
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