『月の光』

文字数 1,018文字

「あーあ。ミホの奴、学校来なくなっちゃたね。つまんねえの」
「今回は早かったね。もうちょっと楽しみたかったんですけどお」
「まあ、また次のオモチャ探せばいいっしょ。虐める相手にゃ事欠かないって。この学校」
3人は悪質ないじめっ子だった。

「ところであんたら、この話知ってる?」
「なになに?」
「面白い話?」

「音楽室の隅っこに古いピアノあるじゃん。あれ、呪われてるんだって」
「はあ、くだらねえ。学校の怪談かよ。聞き飽きたわ」
「それがマジらしいんだって」
「まあ、聞いてやっから、話してみ」

「あのピアノって、ずっと使ってねえじゃん。その理由がね、昔この学校にいた金持ちの子が、あれで『月の光』とかいう曲を弾いた後に、魂抜かれて死んだとか」
「そんなん嘘に決まってんじゃん」
「だけどお。あたし先輩から、本当の話だって聞いたんだって」

「ちょっと待って。いいこと思いついた」
「なになに?」

「ケイコっているじゃん」
「ああ、あの地味な奴?」
「そうそう。あいつ地味なくせに、ピアノ弾けるんだって」
「生意気い」
「ほんで?」

「だから。あいつにそのピアノで、何だっけ?『月の光』だっけ?それ弾かせてみればいいじゃん。それでケイコが死んだら、その話マジってことになるでしょ」
「ナイスアイデア」
「やろう。やろう」

***
翌日気の弱いケイコは、放課後3人に、無理矢理音楽室まで連れて来られた。
「お前、ピアノ弾けんだって?1回弾いてみろよ」
「『月の光』って曲だぞ。分かってんな」

「『月の光』って、ドビュッシーの?」
「知らねえよ。そんなの。さっさと弾けよ」

「でも、楽譜がないと弾けないよう」
「ああん。甘えてんじゃねえぞ。弾かないと、どうなるか分かってんのか?ミホみたいに不登校になりたのか?お前」

3人に脅され、ケイコは嫌々ながらピアノ椅子に座る。
『月の光』は何度か弾いたことがあるが、楽譜なしでは心もとなかった。

しかし、いざ鍵盤に触れてみると、不思議なことに指が滑らかに動き始める。
段々と気分が乗って来て、やがてケイコは曲の世界にのめり込んでいった。
まるで何かが憑依したかのように。

曲が進むにつれて、音楽室内を不思議な気配が満たす。
何かが大勢集まってきて、ピアノの周囲を漂い出した。

『久々に良い弾手に巡り合えた』
曲が終わった時、ピアノの声がケイコの耳元で囁いた。

その声で我に返ったケイコは、恐る恐る顔を上げる。
ピアノの向こう側に、魂を抜き取られた3人の死体が、静かに横たわっていた。
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