上司

文字数 851文字

僕の上司のサトウ課長はとても働き者だ。
毎日朝は一番に出社して、夜はいつも最後まで残っている。

そして課長はとても物静かで冷静な人だ。
僕は入社して以来、サトウ課長が部下に怒ったり、貶したりするのを、一度も見たことがない。
先輩にそのことを話したら、先輩も見たことがないそうだ。

ただ、サトウ課長は怒らない代わりに笑いもしない。
つまり、まったく感情を表に出さない人なのだ。
会議でも必要最低限のことしか言わないし、部下への指示も手短だ。

しかしサトウ課長は、業績にはとても厳しかった。
成績の上がらない部下に対しては、自分が納得いくまで原因や対応策を考えさせる。

怒ったり、説教したりすることはないが、いい加減な話には決して納得しなかった。
そういう意味では、サトウ課長はとても厳格な上司だ。

努力しない部下に対しては、特にそうだった。
その厳しさに耐えかねて、会社を辞める人も多かった。

僕が今の課に配属されてからでも、3人が辞めていた。
先輩に聞いたら、それ以前にも何人かいたそうだ。

辞めた人たちは、決まって突然会社に来なくなる。
その後サトウ課長が、みんなに辞めたことを告げるのだ。

ある日僕は、昼休みにサトウ課長が1人で歩いているのを見かけた。
どこに行くのか興味があったので、こっそり後をつけて行く。

すると課長は、ある建物に入って行った。
看板を見ると、『〇〇寺』と書かれている。

こんなオフィス街にお寺があるとは初めて知った。
遺骨を預かり供養する、ビル形式の寺のようだ。

課長の後についてお寺に入ると、既にエレベーターに乗った後のようだ。
止まった階数を見て、僕もエレベーターに乗った。

着いた階には、遺影がずらりと並んでいた。
遺骨を安置している場所のようだ。

室内を見渡すと、奥に課長がいる。
僕はそっと近づいた。

課長は数珠を手にして、遺影を拝んでいるようだ。
その遺影を見ると、僕が知っている、会社を辞めた先輩たちだった。

その時突然、課長が振り向いた。
「君もこうならないよう励みたまえ」

その時僕は、初めて課長の笑顔を見た。
その顔は…。
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