映画館

文字数 612文字

日曜日。
暇だったので、ぶらぶらと街を歩いていた。

歩道沿いの古いビルとビルの間に、細い路地がある。
今まで気にしたこともなかったのだが、何故かふらりと入ってみたくなった。

路地を突き抜けると、民家の並ぶ細い道に出る。
路地の突き当りには、古い映画館があった。

――こんな所に映画館があったんだ。
何故か無性に入ってみたくなったので、どんな映画が掛かっているのかも見ずに、入口脇の売場でチケットを買い、中に入る。

館内は薄暗く、観客は誰もいなかった。
取り敢えず最後尾の、真ん中の通路を挟んだ右側の席に座る。
するとすぐに照明が落ちて、映画の上映が始まった。

映画の内容は、何故か頭に入って来なかったが、戦争時代の話だということだけは認識できた。
とても悲惨で、悲しく切ない物語だった。
気がつくと館内のあちこちから、すすり泣く声が聞こえてくる。

――いつのまに、お客さんが入っていたのだろう。
周りの人たちのすすり泣く声を聞いていると、とても悲しい気持ちになって、僕も涙を流していた。

気がつくと映画は終わり、館内に薄暗い照明が点った。
周囲を見渡すと、やはり観客は1人もいない。
そしてスクリーンは破れ、座席もボロボロに壊れていた。

僕は怖くなって、大急ぎで映画館を出た。
外に出て振り返ると、あちこち傷んだ古い建物が立っている。

斜めに傾いだ看板が掛かっていて、辛うじて映画館という文字だけを読むことができた。
――ああ、今日僕は、この映画館に呼ばれたんだな。
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