学校『名無し』

文字数 630文字

これも学校に棲んでいる『もの』のお話です。
それには名前がないので、仮に『名無し』と呼ぶことにします。

『名無し』は随分と昔から、学校に棲んでいます。
学校の生徒が大好きで、羨ましかったからです。

『名無し』は、自分も生徒になりたいと、いつも思っていました。
生徒になって授業を受けたり、校庭で遊んだりしたいと思っていました。

しかし『名無し』が生徒になることは、勿論できません。
『名無し』には姿がないからです。

先生にも、生徒にも、『名無し』は見えません。
不幸な例外を除いては。

その日ヒロシ君は、給食後の昼休みに、校庭でクラスの皆と遊んでいました。
元気に走り回っていた時、ヒロシ君は妙なことに気がつきました。
遊んでいる友達の中に、見たことがない子が混じっていたのです。

――あの子誰だろう?
ヒロシ君の学校は、生徒の人数がそれ程多くなかったので、同年代の子の顔と名前は全員覚えています。

――転校生かな?
立ち止まって校庭を見回すと、その子の姿は見えなくなっていました。

――誰だったんだろう?
その時背後から、身の毛もよだつ声が聞こえました。
「だーれーだーとーおーもーうー」

ぞっとしたヒロシ君は、後ろを振り返らず校舎に駆け込みました。
教室には、まだ誰も戻ってきていませんでした。

とにかく落ち着こうと自分の席に座って息を整えていると、また背後から、さっきと同じ声が聞こえてきました。
「ぼーくーとー、かーわってー」
恐る恐る振り返ると、そこにはヒロシ君にそっくりの『名無し』がいました。
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