文字数 947文字

図書館から借りてきた本に、1冊借りた覚えのない本が混じっていた。
図書館に電話すると、そんな本は蔵書にないし、貸出記録にも残っていないという。

――何だろう?
気味が悪かったので、僕はその本を開きもせずに、ごみの日に出してしまった。

ところが学校から帰ってみると、机の上にその本が置いてある。
本当に怖くなって、僕はその本を庭で燃やしてしまった。

ホッとして部屋に戻ったら、また本が机の上に置いてあった。
――どうしたらいいんだろう?
困り果てた僕は、本を学校に持って行き、親友のタカヒロに相談することにした。

「それじゃあ、俺がその本を預かってやるよ」
僕の話を聞いたタカヒロは、笑いながらそう言って、その本を家に持ち帰った。

次の日タカヒロは学校に来なかった。
具合が悪いのかな――と思って電話してみたが、何度掛けても繋がらない。

不審に思いながら家に帰ったら、あの本が机の上に置いてあった。
――もしかしたら、読むまで本はなくならないのかな。
そう思った僕は、恐る恐る本を開いてみた。

中身は絵本で、ページの上に挿絵があり、したに文が書かれているタイプだった。
読み進んで見ると、村が怪物に襲われる物語のようだ。
不思議だったのは、挿絵の登場人物が、ところどころ人型のまま空白になっていることだった。

――変な本だな。
そう思いながら読み進んで行き、あるページまで来た時、僕はページを繰る手を止める。

怪物に襲われ、後ろから斧で頭を割られている村人の顔が、タカヒロそっくりだったからだ。
そっくりと言うよりも、タカヒロそのものだった。

僕は慌ててページを捲る。
次のページも、村人が怪物に襲われるシーンだった。
しかし今まさに怪物に腕を掴まれ、斧で叩かれようとしている人物の絵が空白だった。

首を捻りながらページを捲った時、周囲の世界が変わった。
そこがどこなのか、僕にはすぐに理解できた。
本の中の怪物に、腕を掴まれていたからだ。

怪物は大きな口を開けて、血走った目で僕を見ていた。
右手で血まみれの斧を振り上げている。

僕は本の中の登場人物になってしまったのだ。
タカヒロもそうなのだろう。

そして誰かがページを捲ると、僕はこの怪物に殺されるのだ。
それは、この本が読まれる限り、ずっと続くのだろう。

そして本は、次の挿絵の人物を求めて旅立って行った。
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