アルバイト

文字数 1,011文字

僕は今アルバイト中だ。
3日間の拘束で、何と50万円。

正直ネットの募集広告を読んだときは、やばいかなと思ったが、背に腹は代えられない。
何しろ僕は、とてもお金に困っていたからだ。

バイトの内容は至って簡単で、3日間部屋で過ごして外出しないこと。
たったそれだけで、50万円なるのだから、最初は怪しんでいたけれど、部屋に案内されて飛びついてしまった。

案内された部屋は2LDKで、バストイレはもちろん、テレビや冷蔵庫も完備。
冷蔵庫は食べきれない程の食べ物や、ビールで満杯だった。

バイトの条件はたった2つ。
3日間部屋から出ないことと、リビングに置いてある1m四方の箱を開けないこと。
案内してくれた犬養という人は、箱は自分にしか開けられないし、ドアには外から施錠するから、実質条件を破ることはないと言っていた。

1日目の夜。
散々飲み食いして、ベッドで寝ていた僕は、カタカタという音で目を覚ました。

何だろうと思ってリビングに行ってみると、例の箱が小刻みに揺れている。
――中に生き物でも入っているのかな?
そう思って箱に触れた途端、ガタンと箱が大きく撥ねた。

僕は腰を抜かしそうになったが、取り敢えず箱から離れて寝室に戻る。
カタカタという音は一晩中鳴っていた。

2日目の夜。
ガタン、ガタン。
昨晩よりも大きな音が部屋中に鳴り響く。

恐る恐る箱に近づいてみると、中から「ガルルルル」と、獣が唸る声が聞こえた。
僕は慌てて寝室に戻ったが、寝るどころではない。

その時になって、僕は初めてこのバイトに応募したことを後悔し始めていた。
鏡を見ると、顔はげっそりとして青白い。

3日目の夜。
グオー、グオーという咆哮が部屋中に鳴り響いた。
箱がリビングを転げまわる音も同時に響き渡る。

僕は布団に潜り込んで両耳を塞いで、早く夜が過ぎるのを、ひたすら待ち続けた。
そして夜が明けた。

部屋の鍵を開ける音がして、犬養が寝室に顔を覗かせた。
「おや、ご無事でしたか。それは重畳」

彼はにこやかな顔を僕に向ける。
「お疲れ様でした。ではこれが、お約束の50万円です」

バイト代を受け取った僕は、消え入りそうな声で訊いた。
「あの箱の中には何が?」

「それは、お知りにならない方が身のためですよ。でも、あなた精気を3日間吸ったおかげで、随分と大きく育ったようです。ありがとうございました」
そう言って、犬養は謎めいた笑みを浮かべた。

ふらつく足取りで部屋を後にした僕は思った。
こんなバイトは二度としないぞ。
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