学校『禁句』

文字数 688文字

これも学校に(まつ)わるお話です。
いずこの地にも、そこで決して口にしてはならない言葉というものがあることは、ご存じでしょう。

『禁句』とよばれる言葉です。
その学校にも『禁句』はありました。

それは『痛い』という言葉でした。
ただ学校の中の、どの場所でも言ってはいけないという訳ではなく、特定の場所で『痛い』と言うことが禁じられていたのです。

その場所は学校の裏手にあり、古びた木の柵で囲われていました。
そして柵の角に建てられた立札には、このように書かれていました。
『このなかで、ぜったいに『いたい』といってはいけません。さんだいめこうちょう』

ある時、マチコちゃんという2年生の女の子が、柵の中に入りました。
友達と鬼ごっこをしていて、柵の中に茂っていた、背の高い草の合間に隠れようと思ったからです。

ところがマチコちゃんは、柵の中でつまずいて転んでしまいました。
転んだ拍子に、落ちていたギザギザの石に膝をぶつけて、擦り剝いてしまったのです。

「痛い」
マチコちゃんは、思わず言ってしまいました。

すると、草叢の中から声がしました。
『痛いの?』
マチコちゃんは、声に頷きました。

『どこが痛いの?』
また声がしました。

「お膝」
マチコちゃんは答えました。

『血が出たの?舐めてあげようか?』
マチコちゃんは、ベソをかきながら声に頷きました。

すると草むらの中から長い舌が伸びてきて、マチコちゃんの傷をペロリと舐めました。
『おいしい血だね』

その時、声色が急に変わりました。
『肉もさぞ美味いんだろうな』

それからマチコちゃんは、行方知れずになりました。
ただ囲いの中に、血の付いたマチコちゃんのリボンが落ちていたそうです。
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