事故物件3

文字数 1,218文字

こんにちは。
不動産会社社員のTです。

僕のことを憶えておられますか。
以前都内の事故物件のお話(第53話、第68話参照)の時にお会いしましたよね。

今日も、まあ、例によって事故物件のお話です。
「またか」とか、言わないで下さいね。

事故物件なんて都内のあちこちにありますし、当社で管理しているのは、その中でも選りすぐりの、ヤバい物件が多いんですから。

何でそんな、ヤバい物件ばかり扱ってるかですか?
それは社長に聞いてい下さいよ。

さて気を取り直して、今回の物件ですが、下町にある2階建ての独身者向けハイツです。
そのハイツ自体は、何の問題もない優良物件なんですけどね。

今回のお客さんは、Oさんという、この春に新卒で、東京の企業に入社された男性でした。
真面目そうな方でしたよ。

Oさんを内覧にご案内したら、一発で気に入られて、即契約になりました。
まあ、優良物件ですからね。

ただ一応注意事項については、お知らせしたんですよ。
それはすぐ隣にある、お寺に関することだったんです。

***
「Oさん、ご契約前に一応お話しておきますが」
「何でしょうか?」

「あの物件の隣に、お寺さんがありましたよね」
「ええ、覚えてます。古いお寺でしたね。由緒あるお寺なんですか?」

「うーん。お寺の由緒については、よく存じ上げないんですけど。
あの寺の土塀の一部が、崩れてたのを覚えておられますか?」
「ああ、はい、はい。覚えてますよ」

「夜あそこを通る時は、気をつけて下さいね」
「え?何か出るんですか?」

「うーん。出るというか、何と言うか。
ああいう仕切りが壊れた場所って、境界が曖昧になるって言うじゃないですか」
「Tさん、嫌ですよ。脅かさないで下さいよ」

「いや、まあ、一応注意事項ということで」
「分かりました。僕、そういうのは割と平気なんで」
そう言って笑いながら、Oさんは入居を決められました。

***
その夜Oは、会社の新入社員歓迎会で先輩社員に連れまわされ、かなり酔っぱらっていた。
終電に乗って、駅から危なっかしい足取りで帰る途中、件の寺の前を通ったのだ。

既にTからの忠告は頭から消え去っていて、Oは丁度崩れた土塀の辺りで、塀に手をついて、立ち止まってしまったのだった。

その時崩れた塀の向こう側から腕が伸びてきて、Oの腕を物凄い力で掴んだ。
驚いたOが顔を上げると、正面の塀の向こう側は、真っ暗な闇に覆われていて、そこから1本の腕が伸びてきていたのだ。

『頭はいらん。体を寄こせ』
暗闇から低いくぐもった声が聞こえ、Oは首だけ残して、引きずり込まれてしまった。

***
件の寺の前に、Oの生首が落ちていたというニュースを見たTは、先輩のBに言った。
「Bさん。やっぱりあそこのハイツ、ヤバいですよ。
そろそろ<特級事故物件リスト>に載せた方がよくないですか?」

するとBはこともなげに応えた。
「あほか。あの建物自体は優良なんだから、必要ないだろ。
そんなの一々載せてたら、特級だらけになるわ。
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