文字数 1,011文字

私の部屋は、学生向けのワンルームマンションです。
小さな部屋ですが、その部屋の大きさに不釣り合いな、大きな窓があります。
私が大学進学で上京した時に、駅から遠くて少し不便なこの部屋に決めたのは、その大きな窓が理由でした。

その日は窓を閉め切っていると少し暑く、エアコンをかける程でもない、中途半端な夜でした。
たまには窓を開けて見ようと思った私は、網戸の付いた左側の窓を開けようとして、ふと考えなおしました。

――たまには右側を開けて見ようか。
それは本当に、単なる気まぐれだったのです。

そして右の窓を開けた私は、驚いて声を失いました。
外の風景が一変していたのです。

普段窓から見える風景は、民家やビルがひしめき合う、ごく普通の街並みでした。
しかしその時私が見たのは、建物など一切ない、仄暗い世界でした。

そして窓から離れた場所に、人の形をしたものたちが、うじゃうじゃと蠢いていたのです。
そのものたちは皆、四つん這いになって、長い髪を振り乱しながら、這いずり回っていました。

思わず窓を閉めた私は、窓際に座り込んでしまいました。
背中は冷や汗で、びっしょり濡れていました。

――まさか目の錯覚?
そう思った私は、もう一度確認しようと思い、まず左側の窓を開けました。

外の風景は、見慣れた街の夜景でした。
次に右の窓を少しだけ開け、外の様子を覗きました。
仄暗い世界は、さっき見た時のままでした。

慌てて窓を閉めようとした私は、向こう側で蠢くものの一体と、目が合ってしまいました。
私を見咎めたそいつは、顔に喜色を浮かべ、こちらに向かって這って来たのです。

そしてそいつに続いて、他のものたちも一斉に私の方に向かってきました。
私は慌てて窓を閉め、カーテンを引きました。

部屋から逃げ出そうかとも思いましたが、ドアを開けて、あいつらがいたらどうしようと思うと、どうしても勇気が湧いてきません。

そのまま布団に潜り込んだ私の耳に聞こえてきたのは、ピタピタと窓を叩く音でした。
そ音は徐々に数を増していき、一晩中鳴り止みませんでした。

そうして恐怖の一夜は過ぎて行きました。
気がつくと夜が明けていて、カーテン越しに朝日が差し込んで来ました。

もしかしたら、昨日の見たものは夢だったんじゃないかと思い、私はそっとカーテンを開けました。
そして私は声を失ってしまいました。

右側の窓には、一面に小さな顔型や手形が、無数に押されていたからです。
それは赤黒い血のような色をしていました。

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