マッチングアプリ

文字数 817文字

俺の名前はキョウヤ。
職業はLove Apostle(愛の使徒)。

世間じゃ、<結婚詐欺師>とか呼ぶ、失礼な奴もいるけどな。
俺に言わせれば、愛の代償として金をもらうのは、経済原理から言って当然だろうと思う。
経済原理の意味は知らないんだけどな。

ルックスは、自分で言うのも何だが抜群だ。
俺に口説かれて落ちない女は、1人もいなかった。
これからもいないだろう。

さて、今日も仕事だ。
俺はとても勤勉なのだ。
勤勉の意味も、よく知らないんだけどな。

俺が仕事に使うのは、<マッチングアプリ>。
超便利ツールだ。

登録には本人確認が必要で、理由は悪用されないようにするためらしい。
だがそんなことは、俺には関係ない。

相手に騙されたと思われるなんざ、ど素人のすることだ。
スマートに愛を与えて、スマートに代償の金を受け取り、後腐れなく分かれる。
これがプロのLove Apostleというものだ。

だから俺は、今まで警察のお世話になったことがない。
何故か勘違いして、自殺した女もいたらしいが、そんなのは自己責任だ。
まあ、いちいち憶えちゃいないがな。

さて、今日のカモはっと。
あ、いた。いた。

何か、暗そうな奴だな。
ま、関係ないけどね。

「俺、キョウヤ。待たせた?」
そう言って俺は、女の前の席に座る。

恋愛経験なしって感じだな。よしよし。
今回もちょろそうだ。

ここはいきなり決め台詞で行くか。
「君、清楚な感じが、超いいね。俺、マジで一目惚れだわ。君のためなら…」

「『死んでもいい』でしょ?」
突然女が俺を見て言った。
何でこいつ、俺の決め台詞知ってやがんの?

「だって、前にも同じこと言ってたじゃない」
前にも?どういうこと?

「前も、ここで会ったでしょ?」
あ、思い出した。こいつ確か自殺した…。

「だから、今日は迎えに来たのよ。私1人じゃ寂しいから、一緒に来てくれるでしょ?」
そう言って名前も忘れてしまった女は、とても嬉しそうに笑った。

俺は思った。
本人確認ちゃんとしろよな!マッチングアプリ!
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