明日の記憶
文字数 1,401文字
「ねえ、明日のこと覚えてる?」
ケイコが突然言い出したので、私は戸惑ってしまった。
「明日、何か約束してたっけ?」
「違うって。明日何が起こるか」
――何言ってんの、こいつ?
正直言って私は、最近ケイコとつるむのが、苦痛になっていた。
ケイコとは、今の会社に入社して以来の友達だが、はっきり言って性格が暗いので、話していると、こっちまで暗い気持ちになるのだ。
そんなだから、ショウさんも…。
***
次の日、私はショウさんと、いつもの場所で待ち合わせをしていた。
しかし現れたのは、ケイコだった。
「何であんたがここに…」
驚いた私を、ケイコは暗い眼で睨む。
「ショウなら来ないわよ。ついさっきそこで、殺してきたから」
そう言いながらケイコは、血まみれの包丁を私に見せたのだ。
あまりのことに絶句する私に、ケイコはさらに暗い眼をして言った。
「やっぱり覚えてないのね」
「な、何言ってるの?ケイコ、あんた本当にショウさんを…」
「殺したわよ。
そして今から、あんたも殺すのよ、リサ。
また、いつものように」
「いつものように?」
私はケイコの言葉に、完全に混乱してしまった。
「今回も覚えてないようだから、教えてあげるわ。
私は、この時間に、この場所で、もう何回も、あんたを殺しているのよ。
もう数えるのも面倒になったけど、20回以上は殺してるわね」
言葉を失っている私に向かって、ケイコは容赦なく、言葉を浴びせ続ける。
「そしてまた、1週間前に戻るの。
アンタとショウが、私を裏切って、こっそり付き合ってるのを知った、1週間前にね。
ショウは私の恋人だったのに。
それを友達のあんたが、コソ泥みたいに奪ったの。
だから憎悪を募らせて、あんたたちを殺すの。
でもあんたは、何度1週間前に戻っても、全く今日のことを覚えてない。
私だけが覚えてるのよ。
あんたたちを憎み続けた1週間と、ここであんたたちを殺したことを。
どうして私だけが、苦しみ続けなきゃならないの?
あんたたちなんて、死ぬ時の一瞬の苦しみだけなのに」
「そんなに苦しいなら、止めればいいじゃないの」
私が辛うじて口にした言葉が、ケイコを逆上させた。
「それが出来るなら、とっくにやってるわよ!
どうしても、あんたたちを殺したい気持ちが抑えられないから、何回も繰り返してるんじゃないの!」
私に向かって怒鳴り散らすケイコの眼からは、大粒の涙が流れ落ちていた。
「あんたが昨日、今日のことを思い出していれば。
そして今日この場で、ショウと待ち合わせていなければ。
もしかしたら、私の未来も変わってたかも知れないのに」
「だから昨日、あんなことを訊いたの?」
「そうよ。でも、馬鹿なあんたは、やっぱり思い出さなかった」
「じゃあ昨日、そう言ってくれればよかったじゃない。そしてら今日は…」
そう言いかけた私を、ケイコの怒りの声が遮る。
「そんなこと、とっくに試したわよ。
でもあんたは、私の言うことを取り合わなかった。
そしてまた、この時間、この場所に、のこのこ現れたじゃない!」
「ねえ、ケイコ。お願いだから、殺さないで」
無駄だと知りつつ懇願した私に、返ってきた言葉は、冷徹そのものだった。
「あんたって、やっぱり馬鹿ね。毎回同じことしか言わない。
もういいわ。
昨日あんたが思い出すまで、何回でも殺してやるわよ。
バイバイ。またね」
そう言ってケイコは、私の鳩尾 に包丁を突き刺した。
薄れゆく意識の中で、私は思った。
――わたしもまた、1週間前に戻るんだ。
了
ケイコが突然言い出したので、私は戸惑ってしまった。
「明日、何か約束してたっけ?」
「違うって。明日何が起こるか」
――何言ってんの、こいつ?
正直言って私は、最近ケイコとつるむのが、苦痛になっていた。
ケイコとは、今の会社に入社して以来の友達だが、はっきり言って性格が暗いので、話していると、こっちまで暗い気持ちになるのだ。
そんなだから、ショウさんも…。
***
次の日、私はショウさんと、いつもの場所で待ち合わせをしていた。
しかし現れたのは、ケイコだった。
「何であんたがここに…」
驚いた私を、ケイコは暗い眼で睨む。
「ショウなら来ないわよ。ついさっきそこで、殺してきたから」
そう言いながらケイコは、血まみれの包丁を私に見せたのだ。
あまりのことに絶句する私に、ケイコはさらに暗い眼をして言った。
「やっぱり覚えてないのね」
「な、何言ってるの?ケイコ、あんた本当にショウさんを…」
「殺したわよ。
そして今から、あんたも殺すのよ、リサ。
また、いつものように」
「いつものように?」
私はケイコの言葉に、完全に混乱してしまった。
「今回も覚えてないようだから、教えてあげるわ。
私は、この時間に、この場所で、もう何回も、あんたを殺しているのよ。
もう数えるのも面倒になったけど、20回以上は殺してるわね」
言葉を失っている私に向かって、ケイコは容赦なく、言葉を浴びせ続ける。
「そしてまた、1週間前に戻るの。
アンタとショウが、私を裏切って、こっそり付き合ってるのを知った、1週間前にね。
ショウは私の恋人だったのに。
それを友達のあんたが、コソ泥みたいに奪ったの。
だから憎悪を募らせて、あんたたちを殺すの。
でもあんたは、何度1週間前に戻っても、全く今日のことを覚えてない。
私だけが覚えてるのよ。
あんたたちを憎み続けた1週間と、ここであんたたちを殺したことを。
どうして私だけが、苦しみ続けなきゃならないの?
あんたたちなんて、死ぬ時の一瞬の苦しみだけなのに」
「そんなに苦しいなら、止めればいいじゃないの」
私が辛うじて口にした言葉が、ケイコを逆上させた。
「それが出来るなら、とっくにやってるわよ!
どうしても、あんたたちを殺したい気持ちが抑えられないから、何回も繰り返してるんじゃないの!」
私に向かって怒鳴り散らすケイコの眼からは、大粒の涙が流れ落ちていた。
「あんたが昨日、今日のことを思い出していれば。
そして今日この場で、ショウと待ち合わせていなければ。
もしかしたら、私の未来も変わってたかも知れないのに」
「だから昨日、あんなことを訊いたの?」
「そうよ。でも、馬鹿なあんたは、やっぱり思い出さなかった」
「じゃあ昨日、そう言ってくれればよかったじゃない。そしてら今日は…」
そう言いかけた私を、ケイコの怒りの声が遮る。
「そんなこと、とっくに試したわよ。
でもあんたは、私の言うことを取り合わなかった。
そしてまた、この時間、この場所に、のこのこ現れたじゃない!」
「ねえ、ケイコ。お願いだから、殺さないで」
無駄だと知りつつ懇願した私に、返ってきた言葉は、冷徹そのものだった。
「あんたって、やっぱり馬鹿ね。毎回同じことしか言わない。
もういいわ。
昨日あんたが思い出すまで、何回でも殺してやるわよ。
バイバイ。またね」
そう言ってケイコは、私の
薄れゆく意識の中で、私は思った。
――わたしもまた、1週間前に戻るんだ。
了