第37話  和巳の話  アキラと拓斗 3

文字数 1,701文字

アキラが行ってしまうと拓斗は言った。
「本当に嫌な奴だな」

「何でアキラは拓斗にあんな態度を取るの?」
僕は聞いた。
「知らね。何か俺の態度が気に障ったんだろうな」
「何が?」
「さあ?・・俺も結構ずばずば言っていたからな。何かカチンときたんだよ。だけど、それだったらそう言えばいいだろう?でもアイツ、ちゃんとそう言わないで、あんな風に無視するんだ。男らしくねえよな。俺はそんな奴は大嫌いだ。俺はアイツを軽蔑しているからな。だからあいつにぺこぺこしようなんて思わない。絶対に嫌だ!」
拓斗はそう言った。

「和巳、あいつと学校では仲がいいんだろ?」
「仲良くないけれど、別に喧嘩もしていない。出来るだけ関わらない様にしているんだ」
「ふうん・・」
僕を見た拓斗の視線が痛かった。

僕と拓斗はとても馬が合ったが、性格の強い拓斗は時々皆に煙たがられる事もあった。
よっちゃんもショウヘイもマサキもアキラ派に回っていた。
「別に俺達は拓斗をハブになんかしてねえよ。勝手に拓斗が拗ねているだけだ」
ショウヘイは言った。
「拓斗なんか大したことないじゃん。それなのに威張っちゃってさ。ちょっと凹んだ方がいいんだ。アキラの方がずっと上だよ」
マサキも言った。
よっちゃんは何も言わなかった。


学校からの帰り道。
僕とよっちゃんは一緒に帰って話をした。
「和巳。アキラってさ。クラスでも人気者じゃん?先生だって何かに付けて『アキラ君』、『アキラ君』って言うだろう?・・・クラブはもうクラブでしょうが無いけれど、アキラに逆らうのは、ちょっとやばいんじゃないか?クラスが一緒なんだからさ」

そんなのは僕だって分かっている。重々分かっている。

「別に逆らっていないよ」
僕は言った。
「アキラが言っていたぜ。拓斗と和巳が自分を無視するって」
よっちゃんは言った。
「アキラだって拓斗を無視しているじゃないか。それに拓斗はそうかもしれないけれど、僕は無視なんかしていない!」
僕は腹が立ってきた。
どうしてみんな今まで一緒にやってきた拓斗の事を庇ってやらないんだと思った。
「だって、拓斗よりもアキラの方がずっと上手だしな。拓斗ももっとアキラに協力すればいいんだよ。なのにさ、反対ばかりしているから、うまく行かないんだよ・・・。拓斗が協力しないのが悪いんだ。和巳さ、拓斗と仲のいいのは分かっているけれど・・・このまま行ったらお前がヤバいぜ」
よっちゃんは言った。
分かっているよ。
僕は口をへの字にして心の中で繰り返す。

それにな。
よっちゃんは深刻な顔をする。
「これは内緒だぜ。・・・・谷口と森が辞めただろう?クラブ。突然。あれさ、みんな何で辞めたのかなって言っていいたじゃん?あれって谷口がアキラとトラブったからだって、ウチのママが言っていた。で、森も谷口が辞めるならって言って辞めたらしいよ。」

「えっ?」
僕は驚いた。
「だって、あいつらってアキラと仲良しだったよな?」
「うん・・・」

 二人は第六小学校から来ていた。第六からは彼等だけだった。
「ウチのママは谷口のママと仲が良いんだ。それで谷口のママから聞いたんだ。
ポケモンカード、交換したんだって。練習の後で。谷口は、後悔して、カードを返すから自分のカードも返してくれって言ったら、アキラが断ったんだ。もう、契約成立だからって。それで谷口はママに言って、ママがアキラの家に電話をして、そうしたらアキラのパパが出て、すげえ逆切れしたらしいぜ。頭にきた谷口のママは監督に電話を入れて、監督と谷口の家とアキラの家で話し合ったけれど、大変だったって。アキラのパパは監督にも怒ったらしいよ。カードは返って来たらしいけれどさ」

 そう言えば、監督が「練習の後でカードの交換とか、ゲームの貸し借りはしない事」ってみんなに注意したことがあった。
僕は思い出した。

「アキラともめると面倒くせえぞ。俺、ママにアキラとは余り関わるなって言われた」
・・・
「お前も拓斗と一緒にハブられるぞ。チームならまだしもクラスでハブられたらどうすんだよ?」
僕はよっちゃんを見た。
「ハブってんじゃん!!」
よっちゃんは覚めた目で僕を見た。
「そんなのみんな本当は分かっているよ。当たり前だよ」



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