第39話  和巳の場合  トラブル

文字数 1,284文字

山田が僕の机にぶつかった。それで筆箱が落ちた。
鉛筆やら定規やらが散らばったが、山田は「あっ、悪い」と言って行ってしまった。
僕は筆箱を拾った。
山田はちょこちょこ僕の物を落とす。
彼はお調子者だし、勉強も出来る方ではない。
突然切れたり、気に障るといつまでもしつこく付き纏う所があるから、余り関わらない様にしていたが、流石に教科書を手で払って落としたのには頭に来た。
「あっ、わり。間違った」
「間違って無いだろう?わざとやっただろう?」
「間違いだから」
山田はにやにや笑った。
そして視線を誰かに送った。
僕は彼の視線の先を見た。
そこにはアキラがいて、アキラは僕と目が合うと慌てて顔を伏せた。
「拾えよ」
僕は山田に言った。
「間違いなんだろう?ちゃんと拾って謝れよ」
山田はにやにや笑いながら教科書を拾って机の上に置いた。
「御免。御免」
「お前、アキラにやれって言われたのか?」
僕は言った。
山田は慌てて首を横に振った。僕は山田の腕を掴んで教室の隅に連れて行った。アキラがこちらを見ているのが分かった。

 僕は山田の腕を掴んだままアキラの所に行った。
「アキラ、山田が、お前に『嫌がらせをやれって命令された』って言っているぞ」
僕は言った。
山田はへらへら笑っている。
彼はトラブルが好きなのだ。そしてトラブルが起きると、自分がそこに関わろうとする。関係なくても口を出して誰かを非難する。そして騒ぎを大きくする。
暴れたくてうずうずしているのだ。別に誰の味方とか、そんなのは無い。彼はいつだって一匹オオカミだ。そりゃ、誰だってこんな奴とつるもうなんて思わないよ。

 アキラは澄ました顔をして「知らない。そいつが勝手にやっているんじゃないの?」と返した。
「まったく、僕の所為にしないで欲しいよなあ。迷惑だよ」
そう言って他の友達の方に向き直った。
「なあ?」
友達にそう言う。
「山田はアキラに・・」
僕がそう言っているのを遮ってアキラは強く言った。
「うるさいな。山田なんかの話を信じるなよ。そいつは適当な事を言っているんだよ」
「馬鹿だから」
アキラはそう付け加えた。

 山田の顔が一瞬で変わった。
突然、山田はアキラの机を押し倒した。ガシャーンと机の中の物が落ちて、教室中の誰もが振り返った。「ふざけんなよ。この野郎。おめえが言ったんだだろう?」
山田は落ちた筆箱を思いっきり蹴飛ばした。それが教室のドアに当たってすごい音がした。
教科書もノートも蹴飛ばした。
アキラは唖然としていた。
山田はアキラのすぐ近くに寄って行って「あっ、違うんかよ!この嘘つき野郎!!」と凄んだ。
アキラはびっくりして声も出ない。
山田はアキラの胸倉を掴んだ。
クラス中が大騒ぎになった。
「やめろ!!山田」
男子数名が山田を抑えた。
山田は「うるせえ!」と振り払う。
僕も「山田。やめろ!」と言いながら心の中でほくそ笑んだ。
アキラは山田の事を見縊っていたみたいだ。まあ転校生だからな。仕方ないなと僕は思った。

「あなた達、何やってんの!!止めなさい!」
先生がやって来た。誰かが呼びに行ったのだ。それで、次の時間は自習になって、僕達三人は先生に空き教室に連れて行かれた。

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