第27話  和巳の場合  拓斗の事 3

文字数 634文字

 僕は起き上がるとカーテンを開けた。
 ベッドに座ってスマホを見る。

 6月30日 木

 僕のインスタ。イラストを描いてアップしている。
 ゲームやアニメで使えそうなキャラとか。
 画面にはフォロアー1の文字。
 僕はその文字に指で触れてみた。

 僕のたった一人のフォロアーは死んでしまった。
 それなのに拓斗のアカウントは生き続ける。拓斗はこの世にいないと言うのに。


 洗面所に行くと梨乃がいた。
 梨乃はこっそりと僕に言った。
「パパとママは実はまだ冷戦状態みたいよ」
 僕は頷いた。

 昨日の夜、9時過ぎに帰って来たママにパパが怒って、喧嘩になった。
 パパの大声にビックリしてドアを開けた。
 ママが「ウォーキングに行くから!」と言ってドアから出て行った。

 パパはそれを唖然と見送っていた。
 パパが振り向いたので、僕はドアを閉めた。
 パパが追い掛けて行けばいいのにと思った。
 パパはいらいらと歩き回っている。
 だったら、行けよ。
 そう言ってやりたかった。
 ママは一時間もしない内に帰って来た。
 僕はほっとした。
 ママが僕の部屋に顔を出して「御免ね」と言った。
「もう仲直りしたから大丈夫」と。
 僕は頷いた。

 パパとママはリビングで何かを話していたけれど、その内ママがお風呂を入れて、それでみんなが風呂に入ってその日が無事に終わった。
 何が原因なのかは分からないが、喧嘩なんて珍しいなと思った。

きっとまたパパが何か言ったのだろうな。
パパはあまり考えないで物を言う時があるから。
僕はそう思った。


 
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