第15話  亮介の場合  誘ってみた

文字数 1,169文字

その晩、俺はベッドの中で本を読んでいる英子の横にもそもそと潜り込んだ。
英子は知らん振りをして本を読んでいる。
「狭いから、もうちょっとそっちへ行って」
そう言って英子を押して自分のスペースを作る。
俺のベッドはセミダブルだが、英子のベッドはシングルである。

俺は英子の背中から腕を回して体を抱いた。
パジャマの裾から手を差し入れて肌に触れる。
体のあちこちを触って痩せ具合を確かめる。

おお、腹の肉がこんなに減っている。
それを掌で実感する。
軽くウエーブした髪に顔を近付けて匂いを確かめる。とてもいい匂いがした。そう言えば、風呂場に見慣れないシャンプーがあった。高そうなシャンプーだと思ったが・・。

手が胸に行った。
英子は就寝時はノーブラである。
「胸も少し小さくなった?」
英子は本を置くと俺の手をぱちんと叩いた。
「私、生理中だから」

ふうっと俺は息を吐いた。
「この前もそう言った。お前、一か月に何回生理が来るんだよ」
英子は黙っている。
俺は英子の首筋に唇を押し当てた。
「・・・分かったよ。俺が悪かったよ。俺が悪かった。あんな言い方をして。それで怒っているのだろう?だけど、そんなのもうずっと前の話じゃないか。二か月も前の話だ」
英子はまだ黙っている。
「御免なさい。英子さん。許してください。体型の事はもう言いません。二度と言いません。済みませんでした」
英子はくるりと向きを変えた。
「亮介は痩せている女が好きなんだ?」
「いや、痩せていると言うか・・・まあ、そりゃあスマートな方がいいよな」
「じゃあ、太っている私は嫌いなのね?」
「いや、そういう訳じゃ無くて・・・色気が無い嫁よりも綺麗で色気のある嫁の方が良いに決まってんじゃん。そんなの誰だってそうだろ?お前だってさ、俺がカッコいい方がいいだろう?中年太りとかしていないで」
英子ははははと笑った。
「うん。まあ、それはそうだけれどさ・・・確かにそうなんだけれどね」
そう言って両腕を俺の首に回した。
「でも、私はどんな亮介でも好きだよ」
英子はそう言って目を閉じた。


それがずんと胸に響いた。
俺は不覚にも涙が零れそうになった。
「英子・・・。そんなの俺だって本当はそうに決まっているだろう?でもさ、そうは言っても、今の君の方が俺は好きだし、俺は毎晩でも抱きたいと思うよ」
俺は英子に口付けた。
何か月振りかの口付けだった。
掌は英子の太腿を撫でる。
「だから本当に生理中だって」
英子が手を掴んだ。
「じゃあ、生理が終わったらしよう」
俺は言った。
「分かった」
英子は微笑んだ。

いつまでも未練たらしく自分に纏わり付く俺を振り払うように英子は立ち上がった。
「トイレに行って来るから。もう寝るよ」
そう言って部屋から出て行った。俺はその後ろ姿を布団の中から見送る。
英子の匂いのする布団からのそのそと抜け出ると自分の布団に潜った。
そして天井を見詰めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み