第45話  英子の場合  水曜日の夫

文字数 592文字

歩きながら後ろをちらりと見たが亮介の姿は見えなかった。
曲がり角を曲がる。

小さな交差点に差し掛かる。
「ふふふ」
私は笑った。
「顔が引きつっていましたね」
尊君が言った。
「笑顔が嘘っぽかったよね。ああ。すっきりした」
私も言った。

私は立ち止まった。
「有難う。尊君。面倒な事を頼んで御免なさいね。じゃあ、ここで」
「全然大丈夫です。どうせこの後出かける予定だったし。・・・ところで、高村橋さん。費用の振り込み。有難う御座いました。村瀬からもお礼をお伝えしてくれとの事でした」
尊君はにっこりと笑って言った。
「また、何かありましたら、その時もウチにどうぞ」

「嫌だ。もう無いわよ。流石に。でも、本当に有難う」
私はバックからポチ袋を取り出す。
「これ、今日のお礼。彼女と美味しい物でも食べて」
それを彼の手に握らせる。

尊君は「そんな、いいですよ。こんな事位で」と遠慮していたが、私は「大した額じゃ無いから」と言って押し付けた。
尊君は頭を下げて、じゃあ頂きますと言った。

「高村橋さん。石垣島。楽しんで来てください。ミッションが無事に終了することを願っていますよ」
尊君はそう言うと、手を振って去って行った。
私は微笑んで「有難う。さようなら」と返した。

私は彼と違う道を行く。
ブックストアに寄って本を物色して、それからレストランで美味しい物でも食べようと思った。今日で最後だから。もうマルエリを監視することもないしね。

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