第61話  亮介の場合  石垣島 1

文字数 2,382文字

見渡す限りの青い空。そしてどこまでも透明な海。
海の色が場所によって違って見える。透明だったり、エメラルドグリーンだったり、ターコイズブルーだったり。
そんな風に見えるなんて知らなかった。
こんなに綺麗な海は見た事が無い。
ああ。いい天気だ。
サクサクと砂を踏む。
しかし、暑いな・・。

俺は石垣島にいた。

衝撃の一夜が明けて、俺は沖縄に飛んだ。
予定の飛行機は当日早朝にキャンセルされていた(アンビリバボー!)
俺は予約を取り直した。直行便が取れなかったから、沖縄本土で一泊をした。
そして今朝方出て来たのだ。
砂浜を歩きながら俺は「きりん」を見る。
和巳が戻って来てくれた。
「パパは許せないけれど、皆で見捨てたら可哀想だと思って」と書いてあった。
俺はそれを見て泣いた。
男泣きに泣いた。
有難かった。和巳が言葉がすごく心に響いた。
今はたった2人だけど、いつかまた4人に戻して見せる。
そう決心した。


「梨乃」

俺はホテルのパラソルの下で椅子に座ってジュースを飲んでいる梨乃に声を掛けた。
生意気にサングラスをしている。
梨乃はサングラスを上げると驚いたように言った。
「パパ!どうしたの?」

俺は苦笑いをした。
『どうしたの?』は無いだろう?
俺だけ置いて行ってしまったくせに。
そう思ったが口には出さなかった。

「和巳が教えてくれた」
俺はそう言うと梨乃の隣に座った。
「ママと和巳は?」

梨乃は海を指さした。
「あそこの岩の所にいる。カクレクマノミがいるの」

海には沢山の人が海を楽しんでいた。みんなシュノーケリングをしている。

梨乃はじっと俺を見た。
「浮気の話はいつママに聞いたの?」
俺は言った。

「最後のウォーキングの時だよ。ぎりぎりまでママは黙っていたんだ。・・ねえ。パパ。それよりも、パパって一体、何人と浮気したの?」
俺はどきりとした。
「何でそんな事を聞く?一人に決まっているだろう?」
梨乃は疑わしい目で見る。

「じゃあさ、その一人の人と一年以上も浮気していたの?」
梨乃は軽蔑の眼で俺を見た。
この嘘つき野郎と言う目だった。目がそう言っている。

「・・どういうことだ?一年以上って・・・?」
「嘘ばっかり!!本当に嘘付きなんだから」
梨乃が言った。
「ねえ。私はずっと前からパパの浮気を知っていたんだよ!もう一年前から!」
俺は唖然として梨乃を見た。
「一年前・・・?」
「和巳が熱を出して、ママと病院に行った事があったのを覚えている?去年の6月だよ。
私とパパで留守番をしていて、パパに電話がかかって来たでしょう。女の人から。私、あの後、パパの後を付けたんだ。そうしたら駅で女の人が待っていて、二人で電車乗って・・・。
S市で電車を降りたら、女の人がパパの腕にしがみついた!」
梨乃はそう言って俺を怖い顔で睨んだ。

俺はびっくりした。
信じられない。
本当にここ数日信じられない事ばかり起きている。俺のキャパをとっくに超えている。光年レベルで超えている。
何でこんな事ばかり起きるのだ?
これなら宇宙人が今ここにUFOで現れても、何て事は無いと思える。
「なんくるないさ~」って人に言う事だって出来る。

「あの時の女の人と、今回の写真の女の人は違う」
梨乃は断言した。
俺は目を見張った。
忌まわしい過去がまた一つ暴露されてしまった。

「私がどれ程悩んだと思う?ねえ。すごく悩んだんだよ。何度も部屋で泣いたんだよ」
「す‥・・済まない」
「何で私がパパの浮気で悩まなくちゃならないの?」
梨乃はそう言うと鬼の様な顔で俺を睨んだ。
炎の様な目だった。
俺を断罪しようとする閻魔大王の目だった。
「悪かった。本当に済まなかった。心から謝る」
俺は心から恐れ入った。
「御免で済めば警察は要らないんだよ!」
梨乃は言った。

その・・。ほんの遊びだったんだ。本気じゃ無かったんだ。
俺はぼそぼそと言った。
梨乃が知っていたなんて・・・。
知っていたならこっそりと教えてくれれば良かったのに・・。
「はあ?何だって?聞こえないよ!!」
梨乃はドスの効いた声で言った。
「な、何でも無い。済まない。本当に済まない」
俺は慌てて返した。
俺は自分が恥ずかしくて仕方無かった。
余りにもイタ過ぎる・・。
穴があったら尻尾を丸めて穴の中に隠れたい位だった。


小さく小さく縮んでしまった俺を見て、梨乃大王は腕を組んだ。
「浮気は終わったのかと思っていたら、また違う人と浮気していたんだね。一体何を考えているの。信じられない。こんな人が自分のパパだと思うと情けないよ!」
「ママは泣いていたからね。私がちゃんとしていないからこんな事になって申し訳が無いって。ママが悪い筈無いじゃん。何なの一体、ママの何が不満で」
俺は梨乃の説教を遮って言った。
「梨乃。それは、・・そ、その6月の事はママに言ったのか?!」
梨乃は言った。
「当然だよ!!」

俺はがっくりと肩を落とした。
・・・もう最悪。
「ママは何て言っていた?」
俺は聞いた。
「呆れて声も出なかった。もう、パパの事は何も信じられないって!!」

俺はふううっと息を吐くと梨乃のジュースを取ってがぶりと飲んだ。
「ああっ!私のジュース」
梨乃は慌てた。
「もう一杯頼めばいいじゃないか。どうせフリードリンクだろう?」
梨乃は立ち上がった。
このくず野郎と言う目で俺を見下ろす。俺は梨乃に殴られるんじゃないかと思った。

「梨乃。ママを呼んで来てくれないか」
俺は空になったグラスを梨乃に差し出して言った。
「それと俺にも何かジュース」
梨乃はグラスを奪い取った。
「もう、最っ低!!」

梨乃はジュースを持って来るとどんとテーブルに置いた。
そしてどすどすと海に向かって歩いて行った。

怒った顔が英子にそっくり。
俺はくすくすと笑った。

英子が砂浜を歩いて来る。
俺はその姿を眺める。
すっかりスマートになって、こうやって見るとやっぱりいい女に見える。
ゆるくウエーブの掛かった髪が濡れて色っぽい。
俺は複雑な気持ちで英子を眺めていた。
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