第26話  和巳の場合  拓斗の事 2

文字数 946文字

 拓斗と僕は同級生で仲が良かった。
 学区が違うから小学校は別だったが、家はそう遠くは無かったし、そのまま行けば同じ公立中学に行くはずだった。
 僕達は同じサッカークラブで小学2年生の時から一緒にサッカーをやって来た。

「若竹サッカークラブ」
 昭和チックな名前であるが。

 本当の事を言うと僕はすごくサッカーが好きと言う訳ではない。けれどパパは僕がサッカーをやっていると嬉しそうな顔をしたし、それに休みの日には公園でボール蹴りを一緒にやってくれた。僕はそれがとても嬉しかった。だから僕はパパが喜んでくれるように、一生懸命にサッカーを頑張った。
 大会の時も練習試合の時も家族は応援に来てくれた。
 でも、僕はそれ程運動神経が良い方ではないし、体力がある訳でもない。
 だからレギュラーである筈も無かった。
 監督は補欠の子もちょっとずつ試合に出られる様にメンバーチェンジをしてくれた。
 そんな僕が小学校5年生までサッカーを続けられたのはきっと拓斗がいたからだと思う。

 僕はディフェンス、拓斗はオフェンス。
 僕はやって来る敵からボールを奪取しようとしつこく相手に食らい付く。
 それでも大体が抜かれて行く。無理してファウルを取られる事もしばしば。
「和巳!行け!」
 パパの声がする。
 必死でプレッシャーを掛けて運よくボールが僕の足元に来たならそのままドリブル。そしてMFへのパス。
「和巳!こっち!」
「和巳!パス」
 拓斗の声。ミノルの声もよっちゃんの声も。
 フィールドの向こう側を拓斗が走っている。
 拓斗がゴールを決めると本当に嬉しかった。
 みんなが僕の所に走り寄って肩や背中を叩いてくれる。
 拓斗が走って来て僕に抱き付いた。
 パパとママは小躍りしている。
 その時はサッカーをやっていて本当に良かったなって思った。

 拓斗と僕はきっと同じ中学へ行って部活動はサッカーを選ぶのだろうな。でもきっと僕は補欠で拓斗はエースだろうな。サッカーは中学までだな。中学までやればいいや。拓斗がいるから。拓斗に付きやってやるか。僕はそんな風に思っていた。

 そうなんだ。きっとそうなっていたはず。

 アキラが5年生の時に僕のクラスに転校して来なければ。
 そして同じサッカークラブに入らなければ。
 あいつさえ来なければ、そうなっていたのだ。
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