第40話  亮介の場合  和巳の話

文字数 1,359文字

俺は益々驚いた。
「そんな事があったなんて知らなかった。先生はママに言ったの?ママは知っているのか?」

和巳は首を振った。
「先生は話を聞き終わって『三人のお家に連絡します』と言ったんだ。山田は不貞腐れて『構いません』と言った。でも、アキラは青くなって『すごく叱られるから、止めて欲しい』と言ったんだ。『そんなの、知るかよ。俺なんか親に殴られるよ』って山田が言った。そうしたらアキラが『僕だって殴られる』と言った。先生は困った顔をして・・『で、和巳君は?』と聞かれて・・」

「僕は連絡が家に行くとサッカークラブにママから連絡が行くだろうし、そうなると拓斗とアキラの事もバレるし、そうなるとアキラのパパが出て来るだろうし、ぐちゃぐちゃになるだろうな・・と思った。だから言わなくてもいいって言ったんだ。・・それにあの頃はママは梨乃の受験とおじいちゃんの病気で大変だったから・・・」

 先生は明らかにほっとした顔をした。
僕はアキラは本当に殴られるのかなと思ったよ。
和巳はそう言った。

「サッカークラブのトラブルはサッカークラブで解決してくれる?教室に持ち込まないでください。二度と。・・・アキラ君。次回は勘弁しませんからね。先生は今回、君に対してすごくがっかりしました。あなたってそう言う子だったのね。」
先生はそう言った。

「何でパパに言わなかったんだ!」
俺はむかむかしながら言った。
「パパに言ったら、それこそ大騒ぎになると思ったんだ。アキラのパパと喧嘩して・・。アキラの家と拓斗の家と僕の家と・・・。そんなんなったら、拓斗だってチームを辞めるかも知れない。拓斗は誰にも言うなって言っていた。拓斗はサッカーが好きだから辞めたくなかったんだ。・・・それにそれが原因でアキラがチームを辞めたら、今度はみんなががっかりするんじゃないかと思って・・・・」

「それ以来、アキラは僕に嫌がらせをする事は無くなった。まあお互いに無視をしていたけれどね。でも僕はもうアキラと一緒にサッカーをやるのが嫌になった。あのチームにいる事が嫌になったんだ。サッカーを続ける意味があまり無い様に思えた。拓斗みたいにすごくサッカーが好きならば、また別だったのだろうけれど・・・。僕の学校の人達はアキラと僕の事を知っていたから、アキラ、アキラって言わなくなったけれど、それでもアキラは格段に上手いから。嫌な奴だけれど・・・。僕は拓斗と一緒にいたかったけれど、何だかもう色々と嫌になってしまって・・・」

 
そんな時、ママが言ったんだ。『和巳は中学受験はしないの』って。

「僕は逃げたんだ。拓斗を置いて。拓斗をたった一人にして。・・・『親が受験しろってうるさいんだ』と言って。そう言ってクラブを辞めた。『本当は辞めたくないんだけれど、塾にも行かなくちゃならないし』って言って。拓斗はショックを受けたみたいだった。だって、二人で中学でもサッカーをしようって言っていたから。
『親がしつこいんだ。高校受験は大変だから、今のうちに受験しておくべきだ。ウチ、姉ちゃんも私立受験したから』って僕は言って・・・。
拓斗は悲しそうに僕を見て『そうか…』って言った。
僕は拓斗に『御免よ。拓斗』と言って謝った。拓斗は笑って『ちょっとショックだったけれど、大丈夫だ』って言った」

そして僕はクラブを辞めた。
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