アステッドプロ(10)
文字数 1,481文字
「颯斗は、私を売り渡すつもりなのか……?」
説明を聞き終えた日毬は、最初にそう言った。
「違う。そうじゃない。そういう提案があったから、あとは日毬次第で俺も方針を決めようと思ったんだ」
「……」
日毬は怒ったような視線を俺に向けてきた。
「日毬の目的は政界の頂点に立つことであって、芸能界はステップでしかないだろう? ならば、より最短の道を考えれば、移籍した方がプラスかもしれないということさ。判断は日毬がすることだ」
「颯斗は……私の移籍話を受けてお金になった方がいいのか?」
「そんなものはどうでもいい。たしかに新しい事業を始めるには役に立つだろうが、しょせんは一億やそこらの話だ。端金だよ」
「……私には想定外なのに、颯斗には検討の余地があることなんだな。私は……颯斗にとってその程度の存在なのか……」
ありありと日毬は落ち込んだようだった。
「常日頃から日毬は言っているだろう。命を懸けてでも成し遂げるんだって。俺は日毬の本気さを誰よりも知っているから、日毬の障害になるようなことはしたくない。いいか日毬、目的を成し遂げるためにどっちを選ぶのがメリットになるか、冷静に考えるんだ」
俺は熱心に続けていく。
「移籍してくれと言っているんじゃない。日毬の判断を尊重しよう。だけど日毬の目的を考えれば、俺には答えが決まっているように思えてならない」
「でも、私は……」
「命を懸けるって話は冗談だったのか?」
「冗談ではない。私は日本国家のために生きている。日本の頂点に立つためにはアイドルとして成功するのが手早いと思ったからこそ、私はこの業界に入ることを決意したのだぞ。私は臆せず、最短の道を突き進むつもりだ」
そう抗議してきた日毬は、ふいにハッとした表情になり、うつむきがちに小さく口にする。
「それでも颯斗に……一緒にいて欲しいんだ……」
「駄々っ子みたいなことを言うな。日毬のプロデュースを俺がやり続けるとしたら、アステッドプロがやるよりもずっと時間はかかると思う。日毬はそれでいいのか? 一日でも早く日本の頂点に立つんじゃなかったのか?」
「……」
日毬は目に涙を溜めたように見えた。うつむいているから、表情はよく見えない。
「……日毬?」
俺は優しく声をかけた。少し強く言いすぎただろうか……。
健気に日毬は手で涙を拭った。
「あれも欲しい、これも欲しいなどと、私は最低だな。でっ、でも……颯斗と一緒にいられないなんて信じられない……。どうしようもない気持ちなんだ……」
日毬は涙が止まらなくなったようだった。
俺は慌ててソファを立ち、日毬のすぐ隣に腰かけ直した。まさかこれほどまでに日毬を苦しめることになろうとは想像していなかったのだ。
「日毬、すまない……。泣かせるほど困らせるつもりはなかった。二度とこんな話は持ち出さないから、泣かないでくれ」
俺はティッシュで日毬の目尻を拭いてやり、続ける。
「この話をすぐに断らなかったのは、俺に力のないことが原因なんだ。確実に日毬のプロデュースを成功させる自信があれば、日毬に嫌な選択を強いることもなかった」
「いや、私にアイドルとしての力がないことが原因なんだ。颯斗は頑張ってくれているのに、私は……」
「バカ言うな。日毬だからこそ、これだけ話題になってるんだぞ。俺にも想像できなかったほどの、急激な日毬人気だよ。だから最大手のプロダクションが、日毬を獲得しようと躍起になってるんだ。俺がもっと頑張ってやるからな。心配するな」
日毬の涙を拭きながら、俺は断ることを心に決めた。
説明を聞き終えた日毬は、最初にそう言った。
「違う。そうじゃない。そういう提案があったから、あとは日毬次第で俺も方針を決めようと思ったんだ」
「……」
日毬は怒ったような視線を俺に向けてきた。
「日毬の目的は政界の頂点に立つことであって、芸能界はステップでしかないだろう? ならば、より最短の道を考えれば、移籍した方がプラスかもしれないということさ。判断は日毬がすることだ」
「颯斗は……私の移籍話を受けてお金になった方がいいのか?」
「そんなものはどうでもいい。たしかに新しい事業を始めるには役に立つだろうが、しょせんは一億やそこらの話だ。端金だよ」
「……私には想定外なのに、颯斗には検討の余地があることなんだな。私は……颯斗にとってその程度の存在なのか……」
ありありと日毬は落ち込んだようだった。
「常日頃から日毬は言っているだろう。命を懸けてでも成し遂げるんだって。俺は日毬の本気さを誰よりも知っているから、日毬の障害になるようなことはしたくない。いいか日毬、目的を成し遂げるためにどっちを選ぶのがメリットになるか、冷静に考えるんだ」
俺は熱心に続けていく。
「移籍してくれと言っているんじゃない。日毬の判断を尊重しよう。だけど日毬の目的を考えれば、俺には答えが決まっているように思えてならない」
「でも、私は……」
「命を懸けるって話は冗談だったのか?」
「冗談ではない。私は日本国家のために生きている。日本の頂点に立つためにはアイドルとして成功するのが手早いと思ったからこそ、私はこの業界に入ることを決意したのだぞ。私は臆せず、最短の道を突き進むつもりだ」
そう抗議してきた日毬は、ふいにハッとした表情になり、うつむきがちに小さく口にする。
「それでも颯斗に……一緒にいて欲しいんだ……」
「駄々っ子みたいなことを言うな。日毬のプロデュースを俺がやり続けるとしたら、アステッドプロがやるよりもずっと時間はかかると思う。日毬はそれでいいのか? 一日でも早く日本の頂点に立つんじゃなかったのか?」
「……」
日毬は目に涙を溜めたように見えた。うつむいているから、表情はよく見えない。
「……日毬?」
俺は優しく声をかけた。少し強く言いすぎただろうか……。
健気に日毬は手で涙を拭った。
「あれも欲しい、これも欲しいなどと、私は最低だな。でっ、でも……颯斗と一緒にいられないなんて信じられない……。どうしようもない気持ちなんだ……」
日毬は涙が止まらなくなったようだった。
俺は慌ててソファを立ち、日毬のすぐ隣に腰かけ直した。まさかこれほどまでに日毬を苦しめることになろうとは想像していなかったのだ。
「日毬、すまない……。泣かせるほど困らせるつもりはなかった。二度とこんな話は持ち出さないから、泣かないでくれ」
俺はティッシュで日毬の目尻を拭いてやり、続ける。
「この話をすぐに断らなかったのは、俺に力のないことが原因なんだ。確実に日毬のプロデュースを成功させる自信があれば、日毬に嫌な選択を強いることもなかった」
「いや、私にアイドルとしての力がないことが原因なんだ。颯斗は頑張ってくれているのに、私は……」
「バカ言うな。日毬だからこそ、これだけ話題になってるんだぞ。俺にも想像できなかったほどの、急激な日毬人気だよ。だから最大手のプロダクションが、日毬を獲得しようと躍起になってるんだ。俺がもっと頑張ってやるからな。心配するな」
日毬の涙を拭きながら、俺は断ることを心に決めた。
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