ひまりプロダクション(4)
文字数 1,349文字
ポスター用の写真撮影から、舞台を移して広報VTRの収録に入っていた。
制作会社のスタッフが、台本を前にして机に腰かける日毬に指示を飛ばす。
「次のシーンでは、本年度の予算科目表を読み上げるときに……そう、そこを指差してもらえる? そこにCGで数字が表示される予定だから。準備いい?」
「了解した。ここでいいのだな?」
日毬が応じ、スタッフが同意する。
「そうそう。じゃあ行くよ。はい、スタート」
「みなさん、今年度の防衛省の予算の概要を知っていますか? 防衛問題は国の根幹、国民として常に関心を持って――」
台本を読み上げていく日毬を横目に、俺と由佳里は、防衛省の担当者と話し込んでいた。
担当者が感心したように言う。
「めちゃくちゃ可愛いし、頭も良い子だね。指示を一度も違えない。台本もスラスラだ。丸暗記でもしてきたのかね? いいスタッフィングだよ」
「ありがとうございます。そう仰って頂くと、仕事のし甲斐がありました」
俺が礼を言い、由佳里も続く。
「来年以降も、ぜひよろしくお願いします」
「このコンセプトで今後もいけるかどうか、今回の評判を見てからだけど……できれば、毎年これでやっていきたいねー。司会はこの子でいいんじゃないかな」
俺と由佳里は顔を見合わせて頷き合った。
上々の反応だ。人選に間違いはなかったということである。
日毬の声はスタジオ内に朗々と響く。
「さてここで、上半期における歳出歳入予算を見ていきましょう。こちらの表に示す通り――」
演説慣れしているからだろうか、トーンは明快で聞き取りやすく、澄み渡った良い声だ。これなら、歌を歌わせても上々の成果を収められるかもしれない。
それから滞りなく、予定通りに撮影を済ませることができた。初仕事の割に、なかなかの出来だと思う。
担当者やスタッフらへの挨拶を済ませた俺と由佳里は、撮影を終えた日毬の許 へ近づいた。
俺と由佳里がそれぞれ声をかける。
「初仕事、おつかれさん。上出来だぞ」
「おつかれさま、日毬ちゃん。やってみて、どうだった?」
「ポスター撮影より、広報ビデオの方がずっと面白かったぞ。やはり主張すべきことがあるといい。台本通りであってもだ。もちろん私と主張を違える台本ならやりたくないが、自衛隊なら大歓迎だ」
わずかに日毬は上気しているようだ。一仕事終えた達成感があるのだろう。
「広報担当や制作会社スタッフの反応も、ずいぶん良かったぞ。本当に一生懸命だから、俺もやりがいがあるよ。さて、初仕事をこなしたお祝いに、軽くメシでも食べに行こう。もちろん俺の奢りだ」
「やった。便乗〜」
なぜか由佳里がガッツポーズした。
「日毬は、肉と魚ならどっちがいい? 好きな方でお祝いしよう」
「日本人なら、お魚一択だろう。肉は好かん。口にしないわけじゃないが、積極的に食べるものでもない。お魚は毎日でも食べるべきだ」
そう言った日毬の顔に、由佳里が羨ましげな眼差しを向ける。
「だから日毬ちゃんのお肌は輝いてるのね……。最近、接待では焼き肉が多いのよ……」
「決まりだ。じゃあ由佳里の家にでも行くか。その辺でタクシー捕まえよう」
それから俺たちは荷物を手に、スタジオを後にしたのだった。
制作会社のスタッフが、台本を前にして机に腰かける日毬に指示を飛ばす。
「次のシーンでは、本年度の予算科目表を読み上げるときに……そう、そこを指差してもらえる? そこにCGで数字が表示される予定だから。準備いい?」
「了解した。ここでいいのだな?」
日毬が応じ、スタッフが同意する。
「そうそう。じゃあ行くよ。はい、スタート」
「みなさん、今年度の防衛省の予算の概要を知っていますか? 防衛問題は国の根幹、国民として常に関心を持って――」
台本を読み上げていく日毬を横目に、俺と由佳里は、防衛省の担当者と話し込んでいた。
担当者が感心したように言う。
「めちゃくちゃ可愛いし、頭も良い子だね。指示を一度も違えない。台本もスラスラだ。丸暗記でもしてきたのかね? いいスタッフィングだよ」
「ありがとうございます。そう仰って頂くと、仕事のし甲斐がありました」
俺が礼を言い、由佳里も続く。
「来年以降も、ぜひよろしくお願いします」
「このコンセプトで今後もいけるかどうか、今回の評判を見てからだけど……できれば、毎年これでやっていきたいねー。司会はこの子でいいんじゃないかな」
俺と由佳里は顔を見合わせて頷き合った。
上々の反応だ。人選に間違いはなかったということである。
日毬の声はスタジオ内に朗々と響く。
「さてここで、上半期における歳出歳入予算を見ていきましょう。こちらの表に示す通り――」
演説慣れしているからだろうか、トーンは明快で聞き取りやすく、澄み渡った良い声だ。これなら、歌を歌わせても上々の成果を収められるかもしれない。
それから滞りなく、予定通りに撮影を済ませることができた。初仕事の割に、なかなかの出来だと思う。
担当者やスタッフらへの挨拶を済ませた俺と由佳里は、撮影を終えた日毬の
俺と由佳里がそれぞれ声をかける。
「初仕事、おつかれさん。上出来だぞ」
「おつかれさま、日毬ちゃん。やってみて、どうだった?」
「ポスター撮影より、広報ビデオの方がずっと面白かったぞ。やはり主張すべきことがあるといい。台本通りであってもだ。もちろん私と主張を違える台本ならやりたくないが、自衛隊なら大歓迎だ」
わずかに日毬は上気しているようだ。一仕事終えた達成感があるのだろう。
「広報担当や制作会社スタッフの反応も、ずいぶん良かったぞ。本当に一生懸命だから、俺もやりがいがあるよ。さて、初仕事をこなしたお祝いに、軽くメシでも食べに行こう。もちろん俺の奢りだ」
「やった。便乗〜」
なぜか由佳里がガッツポーズした。
「日毬は、肉と魚ならどっちがいい? 好きな方でお祝いしよう」
「日本人なら、お魚一択だろう。肉は好かん。口にしないわけじゃないが、積極的に食べるものでもない。お魚は毎日でも食べるべきだ」
そう言った日毬の顔に、由佳里が羨ましげな眼差しを向ける。
「だから日毬ちゃんのお肌は輝いてるのね……。最近、接待では焼き肉が多いのよ……」
「決まりだ。じゃあ由佳里の家にでも行くか。その辺でタクシー捕まえよう」
それから俺たちは荷物を手に、スタジオを後にしたのだった。
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