ひまりプロダクション(8)
文字数 1,286文字
続いて漫画雑誌のグラビアの仕事だ。出版社は大手だが、一〇万部ほどの発行部数の、メジャーとも言えずマイナーとも言えない月刊誌だった。その漫画誌が、創刊一〇周年企画として、一九人のアイドルの写真を巻頭で掲載するらしく、そのなかの一人に日毬をお願いしたのだった。
なぜ一九人かと言えば、一ページに一人ずつ掲載し、企画を一九ページに収めるという単なる編集上の都合である。一ページのなかに掲載される写真は二枚のみだ。漫画誌としても一九人のグラビアアイドルを集めきるのは厳しかったようで、俺が日毬のプロフィールを持って営業に行くと、すぐにOKしてくれたのだった。ちなみにギャラはゼロの案件である。交通費も自腹で、足代さえ出ない!
下は一五歳から、上は二一歳まで。日毬は若い方だ。
ひと昔前のグラビア撮影と言えば、ロケ班を組織して砂浜にでも撮影に行ったものだが、今のご時世はどこも予算がない。撮影は都内のプールである。天候には注意しなくてはならないが、撮影スタジオを借りるより安く済むらしい。
学校を終えて日毬が事務所にやってきた。
いつも通りのソファ定位置に腰かけた日毬に、俺は言う。
「来週、グラビアの仕事が決まったぞ。かなり重要な仕事だ。頑張ろうな」
「そうか、颯斗が嬉しいなら私も嬉しい限りだ。この前の雑誌モデルのような仕事だな?」
淡泊に日毬は応じてきた。
「いや、ファッション雑誌の隅っこに掲載されてるだけじゃ、ほとんど目立たない。しかし漫画雑誌の巻頭グラビア企画となれば、はるかに華やかな仕事になるぞ。日毬にとってステップになるはずだ」
「漫画雑誌の巻頭……。そ、それはもしかして……いかがわしいものではないのか……?」
焦ったように日毬は息を吞んだ。
漫画の巻頭グラビアは、日毬にとってどんなイメージなのだろうか……。
「ちっともいかがわしくないよ。準メジャー誌の記念企画だからな。水着のアイドルが一九人並ぶんだ」
「水着……」
「日毬は容姿もスタイルも抜群だ。他のアイドルと並べば、ひとりだけ抜きん出るに違いない」
「……やはりその仕事は……やらなくてはならないのだろうか……」
「当然だろ。日毬を押し出すには、水着グラビアは避けて通れない道だ」
「……」
日毬は言葉もないようだった。
「早速、明日の土曜日に水着を選定しにいこう。今後のことも考えて、少なくとも五着は買っておかないとな。由佳里も呼んで、カッコいいのを選んでもらおうな」
「明日は午前中、学校があるのだが……」
「わかった。由佳里と一緒に学校まで迎えに行くよ。いろいろ見て回ろうじゃないか」
「スクール水着ならある……」
「ダメダメ。マニア向けじゃないんだから。基本はビキニだろ。露出が大きい派手なヤツな」
「……」
日毬は応えず、胸のあたりをグッと握りしめ、呼吸を荒らげた。
その日は終始、日毬は戸惑いを隠さず、念仏を唱えるような面持ちで物思いにふけっていた。日毬にとって好ましい仕事ではないのだろうが、こればかりは乗り越えてもらわないとアイドルとしてプッシュのしようがない。
なぜ一九人かと言えば、一ページに一人ずつ掲載し、企画を一九ページに収めるという単なる編集上の都合である。一ページのなかに掲載される写真は二枚のみだ。漫画誌としても一九人のグラビアアイドルを集めきるのは厳しかったようで、俺が日毬のプロフィールを持って営業に行くと、すぐにOKしてくれたのだった。ちなみにギャラはゼロの案件である。交通費も自腹で、足代さえ出ない!
下は一五歳から、上は二一歳まで。日毬は若い方だ。
ひと昔前のグラビア撮影と言えば、ロケ班を組織して砂浜にでも撮影に行ったものだが、今のご時世はどこも予算がない。撮影は都内のプールである。天候には注意しなくてはならないが、撮影スタジオを借りるより安く済むらしい。
学校を終えて日毬が事務所にやってきた。
いつも通りのソファ定位置に腰かけた日毬に、俺は言う。
「来週、グラビアの仕事が決まったぞ。かなり重要な仕事だ。頑張ろうな」
「そうか、颯斗が嬉しいなら私も嬉しい限りだ。この前の雑誌モデルのような仕事だな?」
淡泊に日毬は応じてきた。
「いや、ファッション雑誌の隅っこに掲載されてるだけじゃ、ほとんど目立たない。しかし漫画雑誌の巻頭グラビア企画となれば、はるかに華やかな仕事になるぞ。日毬にとってステップになるはずだ」
「漫画雑誌の巻頭……。そ、それはもしかして……いかがわしいものではないのか……?」
焦ったように日毬は息を吞んだ。
漫画の巻頭グラビアは、日毬にとってどんなイメージなのだろうか……。
「ちっともいかがわしくないよ。準メジャー誌の記念企画だからな。水着のアイドルが一九人並ぶんだ」
「水着……」
「日毬は容姿もスタイルも抜群だ。他のアイドルと並べば、ひとりだけ抜きん出るに違いない」
「……やはりその仕事は……やらなくてはならないのだろうか……」
「当然だろ。日毬を押し出すには、水着グラビアは避けて通れない道だ」
「……」
日毬は言葉もないようだった。
「早速、明日の土曜日に水着を選定しにいこう。今後のことも考えて、少なくとも五着は買っておかないとな。由佳里も呼んで、カッコいいのを選んでもらおうな」
「明日は午前中、学校があるのだが……」
「わかった。由佳里と一緒に学校まで迎えに行くよ。いろいろ見て回ろうじゃないか」
「スクール水着ならある……」
「ダメダメ。マニア向けじゃないんだから。基本はビキニだろ。露出が大きい派手なヤツな」
「……」
日毬は応えず、胸のあたりをグッと握りしめ、呼吸を荒らげた。
その日は終始、日毬は戸惑いを隠さず、念仏を唱えるような面持ちで物思いにふけっていた。日毬にとって好ましい仕事ではないのだろうが、こればかりは乗り越えてもらわないとアイドルとしてプッシュのしようがない。