一刀両断(3)

文字数 1,218文字

 俺と由佳里が予想した通り、テレビで日毬バッシングが始まりつつあった。
 ある討論エンタメ番組で、日毬の話題が面白可笑しく取り上げられた。それ自体は珍しくない。テレビでは日毬ネタはインパクトがあるので、各種番組で放送されていたからだ。
 しかしこの番組では、人気ニュースの解説者を務めていたタレント経済評論家が、激しく日毬を非難した。
「神楽日毬。美少女ってだけで祭り上げられていただけで、あんな右翼、あっちゃいけないことです。ダメですよ、あんなの。そりゃぶっちゃけると、私も超可愛いと思ってますけどね。ええ、結婚したいです。お願いですから結婚してください!」
 スタジオでは軽い笑いが巻き起こる。
「しかしですね、彼女のようなタレントがクローズアップされると、外国から誤解されちゃいますよ。アジアの人々の悲しみを忘れてはならないんです。いいですか、日本は二度と戦争しないし、戦争という自衛権なんて認めなくていいんです!」
 タレント経済評論家は息巻いた。
 だが自衛権と日毬は関係ないし、極右だから即戦争というわけでもないだろう。議論の焦点をすり替えて相手を非難するのは、学識者の間でも日常的に行われていることだ。
 しばらく彼の日毬批判が続いたところで、司会者が冷静に質問する。
「もし外国が攻めてきたらどうするんですか?」
「我々は非戦を守り通せばいいんですよ。最後の最後まで非戦を貫いて、平和に(じゅん)じればいいんです。過去にそういう美しい民族がいたと知ってもらえれば十分じゃないですか。国防なんてね、経済活動を阻害するだけです。カッコ悪いものなんですよ」
 冷静に聞けば日毬以上に行き過ぎている極左的な意見だ。こういうエンタメ番組を楽しむテレビ視聴者の考えを代弁しているような意見なのだろうか。わからない。司会者は困惑しているようだったが、彼は構わず続ける。
「最近じゃ、まったくテレビの話題にならなくなりましたからね。やっぱり底が浅いってことが、テレビに携わる人たちにはわかるんですよ。ああいう子ってのはね、どうせ目立ちたいから右翼を名乗ってただけで、社会のためになるようなことなんて何もしてないものなんです」
 彼の批判は止まらなかった。
「アイドルとして成功するために必死で演技してるに違いないんです。そりゃあ最初見たときはインパクトあったし、なかなか面白かったですけどね、一時期メディアを占拠して、もう彼女も満足したでしょ」
 日毬がバッシングされ始めたのも、すべては俺の力量不足が原因だ。タレントに非がないのに叩かれたとするなら、それはプロダクションの責任以外の何物でもない。
 テレビがバッシング傾向になっているのを、まだ日毬は知らないだろう。普段、日毬はテレビなど見ない。たまに俺とここで一緒に、自分が登場した番組や特集を視聴するくらいだった。日毬に辛い思いをさせる前に、なんとかする方法はないものだろうか。
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登場人物紹介

神楽日毬(かぐらひまり)

日本の未来を憂う女子高生。雨の日も風の日も、たゆまぬ努力を重ねて政治活動に励んでいる。

織葉颯斗(おりばはやと)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。営業先に向かう途中、街頭演説の最中だった日毬と出会うことになる。

健城由佳里(けんじょうゆかり)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。新人として織葉颯斗の営業に研修のため同行していたとき、演説中だった日毬に出会う。

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