アステッドプロ(6)

文字数 890文字

 あらゆる取材をこなし、日毬はメディアを席巻した。日毬の強硬な演説の一部がテレビで放映され、論議が沸騰していた。テレビは面白可笑しく日毬を取り上げることが多く、本当に際どい発言はすべてカットして放送した。いずれにしても、これだけテレビで名前を売ったことは、芸能活動にとってプラス以外の何物でもなかった。
 言論の場である新聞や雑誌では、七割方が日毬を批判する側に回った。日毬を支持する声にまで批判の声を上げ、日毬のような子がテレビで台頭することは、日本にとって不幸な事態だろうとまで言い切る新聞が多かった。残り三割は是々非々にはあまり触れず、物珍しさで日毬を取り上げた。
 ネットでは日毬支持の声が多く、ファンとアンチ間の争いが盛り上がり、さらに日毬の知名度を押し上げる結果となっていた。どこのブログでも掲示板でも日毬の話題に触れないことがないほどで、ネットは日毬が完全攻略したといってもいいほどだった。もともと日毬の音声が広がり、大手メディアに騒がれる触媒の役目を果たしたのがネットである。注目を集めるのは当然だろう。
 とにかくあらゆるメディアを通して日毬が巷を騒がせ、批判と賞賛のあらゆる声が止まないのだった。
 一般に、絶賛ばかりが集まっても話題は盛り上がらないものだ。支持の声が大半を占めてしまうと、狭い世界だけで意見が交わされ、なかなか外にまで知名度が拡大していくことがない。
 適度に批判があってこそ、その話題は息の長いものになってくれる。そして批判が激しいものであればあるほど、批判者の意図に反し、結果的に話題が大きく拡散するパワーになっていく。批判の強さが、知名度上昇のブースターの役目を果たしているといってよい。あらゆる著名人にとって、批判を受けるのは嫌なことに間違いないのだが、それでも批判こそが最高のメシの種になってくれるのだ。
 日毬とてそれは例外ではない。批判の大合唱に(さら)されたからこそ、一時的な「時の人」で日毬は終わらなかった。テレビ番組のレギュラー出演の話まで多々舞い込み、アイドルとしての地盤を一気に固められる可能性が見えてきたのだった。
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登場人物紹介

神楽日毬(かぐらひまり)

日本の未来を憂う女子高生。雨の日も風の日も、たゆまぬ努力を重ねて政治活動に励んでいる。

織葉颯斗(おりばはやと)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。営業先に向かう途中、街頭演説の最中だった日毬と出会うことになる。

健城由佳里(けんじょうゆかり)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。新人として織葉颯斗の営業に研修のため同行していたとき、演説中だった日毬に出会う。

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