国家と共に(8)
文字数 654文字
「悪いな。習字なんて妙なことを頼んじまって」
俺は由佳里に礼を言った。
「別にいいですよ。こんなの、一分でできることです」
書道の代筆をお願いするため、由佳里のオヤジさんの寿司屋に顔を出していた。由佳里も喜んでやってきて、依頼した習字――『ひまり、頑張ります。』をテキパキとかき上げてくれたのだった。
うむ。見事な成果だ。
実に「普通の文字」である。やはりこの人選に間違いはなかった。
書を前にして、俺は何度もうなずく。
「これだ、これなんだよ、俺の求めていたものは……。来た甲斐があったってものだ」
「ふふん、当然ですよ。江戸っ子ですから。お習字くらい、淑女の基本、お茶の子さいさいってヤツですよ」
由佳里は誇らしげに胸を張って続ける。
「やっぱり雑誌に掲載されるなら、他人に頼んででも、上手いお習字を用意した方がいいですからね。私、これでも小学校二年生のときに、お習字教室に通っていたんです。先輩、私を選定したのは正しい選択でしたね。いつでも代筆、ドーンと引き受けてあげますよ。最高のお習字を見せつけて差し上げましょう!」
カウンターの中にいたオヤジさんが、由佳里の書を見やり、首をかしげる。
「上手いかねぇ……? 織葉さん、本当にこれでいいの? 俺には普通に見えるんだが……。どっちかといえば下手……」
「お父さんの目は節穴? 先輩が超上手いって認めたんだから。老眼の人に言われたくないなぁ!」
由佳里は激しく抗議した。
そんな親子のやり取りを眺めながら、俺は寿司をつまんだのだった。
俺は由佳里に礼を言った。
「別にいいですよ。こんなの、一分でできることです」
書道の代筆をお願いするため、由佳里のオヤジさんの寿司屋に顔を出していた。由佳里も喜んでやってきて、依頼した習字――『ひまり、頑張ります。』をテキパキとかき上げてくれたのだった。
うむ。見事な成果だ。
実に「普通の文字」である。やはりこの人選に間違いはなかった。
書を前にして、俺は何度もうなずく。
「これだ、これなんだよ、俺の求めていたものは……。来た甲斐があったってものだ」
「ふふん、当然ですよ。江戸っ子ですから。お習字くらい、淑女の基本、お茶の子さいさいってヤツですよ」
由佳里は誇らしげに胸を張って続ける。
「やっぱり雑誌に掲載されるなら、他人に頼んででも、上手いお習字を用意した方がいいですからね。私、これでも小学校二年生のときに、お習字教室に通っていたんです。先輩、私を選定したのは正しい選択でしたね。いつでも代筆、ドーンと引き受けてあげますよ。最高のお習字を見せつけて差し上げましょう!」
カウンターの中にいたオヤジさんが、由佳里の書を見やり、首をかしげる。
「上手いかねぇ……? 織葉さん、本当にこれでいいの? 俺には普通に見えるんだが……。どっちかといえば下手……」
「お父さんの目は節穴? 先輩が超上手いって認めたんだから。老眼の人に言われたくないなぁ!」
由佳里は激しく抗議した。
そんな親子のやり取りを眺めながら、俺は寿司をつまんだのだった。
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