一刀両断(10)

文字数 731文字

 翌日の東西新聞の朝刊に、次のような記事が掲載された。

『東王印刷、織葉家は神のような存在。歯止め利かず』

 東王印刷に対する世論の厳しさに迎合した記事だ。
 内容は推して知るべし。
 要するに、「東王印刷にとって織葉家は大株主で、長いこと代表取締役の地位にあり、極めて重要な存在だ」ということを、長々と、もっともらしく書いただけの記事だった。
 そんなことは経済界に詳しい者なら誰でも知っていることで、今さら記事にして騒ぐ必要性などひとつもない。そして筆頭株主で、過半数の株を持っている人物なら、その会社にとって不動の存在であることは自然すぎることである。どこの会社だって同じわけで、創業陣が株式を売り払った一部の上場企業を除き、ほとんどすべての企業には神がいることになってしまう。神を企業の大株主と定義するなら、神は日本にも世界にもゴマンといることになる。
 しかし東西新聞は影響力があるだけに、世間の騒ぎにお墨付きを与えたようなものだった。
 俺は心底参った。俺個人を攻撃するならまだ理解できる。だが、オヤジまで巻き込んで攻撃を続けてくるのは筋違いだ。俺はオヤジが嫌いで仕方がないが、だからこそ、このような形で関係したくはなかった。わずかでも借りを作りたくないし、精神的な重荷を背負いたくもないし、家族の微妙な関係をさらに複雑怪奇なものにしたくはないからだ。
 しかし、打つ手がなかった。
 オヤジに電話でもして謝罪するべきだろうか。向こうは憤然としているはずだが、電話もかかってこない。
 しかし事態を説明しないわけにもいかない。かといって電話だと誤解を生む可能性もある。
 さんざん思い悩んだ末に、仕方なく俺は、実家へと出かけることにしたのだった。
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登場人物紹介

神楽日毬(かぐらひまり)

日本の未来を憂う女子高生。雨の日も風の日も、たゆまぬ努力を重ねて政治活動に励んでいる。

織葉颯斗(おりばはやと)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。営業先に向かう途中、街頭演説の最中だった日毬と出会うことになる。

健城由佳里(けんじょうゆかり)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。新人として織葉颯斗の営業に研修のため同行していたとき、演説中だった日毬に出会う。

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