一刀両断(12)

文字数 1,057文字

 事務所へやってきた日毬に、俺はオヤジからもらったばかりの週刊誌を見せていた。
 日毬は目を見開き、苦渋の表情で記事に視線を落としている。啞然とするのも無理はない。記事は極めて低俗なもので、日毬と俺が毎晩事務所で情事にふけっているようなことが書かれていたからだ。
 俺のことが書かれているだけなら、日毬に見せるのはタイミングを計ろうと思っていた。日毬が激怒し、アステッドに単独で乗り込みかねないからだ。しかし、この記事の内容は、日毬を名指ししている。俺がいち早く伝えておかなくては、日毬は他の人間からこのくだらない記事の内容を知らされることとなり、大いに恥をかくだろう。だから、やむにやまれず見せることにしたのだった。
 記事に目を通した日毬は驚きを隠さず、ポツリとつぶやく。
「信じられない。こんなことがあるんだ……」
「日毬は純粋だから理解したくないだろうが、世の中ってのはそういうものだ。アステッドは、ひまりプロダクションを叩きつぶすことに決めたってことだろうな」
 そう説明し、俺は少し身を乗り出して続ける。
「だけど、このまま手をこまねいて押し切られるわけにもいかない。そこで考えたんだけどさ、近場の会議室を借りて、そこで記者たちを集めて説明するつもりだ」
「私ならいつでもいいぞ。どのような状況でも、演説の気構えはできている」
 日毬は勇ましく応じたが、俺は首をふる。
「いや、日毬じゃなく、俺が受けようと思う」
「……颯斗が?」
「これは俺を狙い撃ってきた記事だ。それに、日毬をこういう色恋沙汰の表舞台には立たせたくない。このトラブルが終われば、日毬には再びアイドルとして活躍してもらうことになるからな。この矢面には俺が立たなくちゃならない」
「そんな……颯斗はやりたくないだろう?」
「これは戦争なんだ。こっちがコソコソ逃げ回ってると、いつまでもこんな事態が続くことになる。向こうが攻撃を加えてきた以上、俺も武器を取って戦わなくちゃならない。事の経緯を可能な限り世間に伝えて、それで終結させるつもりさ。日毬の仕事も挽回してみせるぞ」
「颯斗……」
「大丈夫さ。きっと上手くやりきって、バッシングを収めてみせる」
 俺は安心させようと、強い口調で言い切った。
 すると日毬の顔つきが変わり、決意を込めたようにうなずく。
「わかった。私は私で、やれることをやろうと思う」
 意外にも、日毬はすぐに同意してくれた。日毬なら自分が前面に立つと言い張ると思っていたから、素直に聞いてくれて俺は少しホッとした。
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登場人物紹介

神楽日毬(かぐらひまり)

日本の未来を憂う女子高生。雨の日も風の日も、たゆまぬ努力を重ねて政治活動に励んでいる。

織葉颯斗(おりばはやと)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。営業先に向かう途中、街頭演説の最中だった日毬と出会うことになる。

健城由佳里(けんじょうゆかり)

日本最大の広告代理店、蒼通の社員。新人として織葉颯斗の営業に研修のため同行していたとき、演説中だった日毬に出会う。

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