第20話 国書受け取り

文字数 1,011文字

 阿部が国書を受理することを決定してから三日後、彦根藩兵二千余名と川越藩兵八百余名が陸上を、会津藩船百三十隻と忍藩船五十隻が海上を、そして旗本の下曽根金三郎が一隊を率いて応接所を警衛する中、ペリーは参謀長アダムス中佐以下の幕僚を従えて久里浜に上陸した。
 この時ペリーは蒸気船二隻を久里浜の前面に投錨させていつでも迎撃できる態勢を整え、また三百名の兵員を動員して、埠頭から応接所までの沿道に並ばせその威容を示した。
 一方応接所では、応接掛に任命された浦賀奉行戸田氏栄と同じく応接掛に任命された井戸弘道が、今回の国書授受について話し合っていた。
「まさか儂が生きている間にこのような日を迎えることになろうとはな……」
 ペリーの応接係に任命された今年で齢五五の戸田氏栄が神妙な面持ちでつぶやく。
「儂らは一体これからどうなってしまうのじゃろうか……」
 これから国書を渡しに応接所にやってくるペリーを前に戸田は動揺を隠し切れずにいる。
「あまり弱気なことを申されるな、伊豆殿。それではメリケンをかえってつけ上がらせることになるぞ」
 戸田よりも十歳年上の井戸が宥めるように言った。
「七年前にビットルが浦賀に来航したときからいつかこのような日が来るであろうことは分かりきっていたはずじゃ。とにかく我らはペルリが来るのを座して待ち、そして来たら堂々と国書を受け取ればそれでええんじゃ」
 井戸はまるで自分に言い聞かせるようにして言っている風だ。
 その後、上陸したペリーの行列の先頭がついに応接所に姿を現した。先頭にいる二名の水兵は筋骨隆々で屈強そのものであり、アメリカ国旗と幅広い尖旗を捧持していた。
 先頭の水兵に続いて姿を現した兵士達もみな応接所の中にいる幕府の役人達よりもはるかに背が高く、また体格もよく武装していたため、役人達は驚きただただ動揺していた。
 やがて大統領の親書やペリーの日本国皇帝宛書簡等の国書が入った箱を捧げた二人の少年が応接所に姿を見せると、そのすぐ後ろから黒人のボディガードに警護されながらペリーが姿を現した。
 ペリーは少年達が捧げている箱から国書を引き出し、応接掛の戸田氏栄と井戸弘道にオランダ語訳と中国語訳を伏して手交し、そして井戸からペリーへ受領書が恭しく手渡された。
 ペリーは来春の四月から五月にかけて、国書の返答をもらいにより多くの船艦を率いて来航する予定であることを通訳に伝えさせて浦賀沖を去って行った。 


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