第129話 萩への帰還

文字数 952文字

 小楠との面会を終えた後、晋作は越前の地を後にし、衣川駅、大津、伏見を経て大阪に入り、大阪から富海船に乗って、十月の下旬ごろに萩に帰った。
「ただいま戻りました!」
 萩にある自身の屋敷の土間の入口の前で晋作が声高らかに帰りを伝える。
「だ、旦那様! お戻りになられたんですね!」
「晋作! 戻ってきよったんか!」
 屋敷の奥から晋作の母である道と妻の雅が晋作の出迎えに来た。
「旦那様が無事お戻りになられるんを心からお待ち申し上げとりました! お怪我などはなされとりませんか?」
 雅が心配そうにしながら夫に尋ねる。
「ああ、大事ない。雅は息災じゃったか? 高杉の家の気風にはもう慣れたか?」
 晋作も雅に心配そうにして尋ねてきた。
「はい。まだ至らぬところもございますが、お義父上様やお義母上様の厚情もあり、高杉の家に馴染んじょりますけぇ、どうか私の事は心配なさらずとも大丈夫であります」
 雅がにっこり笑いながら言う。
「はは。それは何よりじゃのう」
 雅の返事を聞いた晋作もにっこり笑う。
「晋作。お父上様が奥の御座敷でおめぇの帰りをお待ちじゃ。早う父上にも無事を伝えんさい」
 父の所に行くよう道が息子に促す。
「かしこまりました。では父上に顔を見せに参ります」
 晋作は旅支度を解いて小忠太の元に向かう。






「ただいま戻りました。父上」
 奥の御座敷にいる小忠太に晋作が帰萩の挨拶をする。
「随分と見違えたな、晋作」
 小忠太が感心したように言う。
「以前のおめぇよりも風格がついたように見える。遊歴して益々見識が広がったか」
 小忠太は息子の成長を心から喜んでいる。
「紆余曲折いろいろございましたが、諸国の賢者達に会うてわしの見識はより一層深まりました。ただ一つ、壬生の五郎兵衛殿から一本もとれず仕舞いで終わってしもうたことはどねぇしても心残りではございますが……」
 晋作がどこか悔しそうな表情を浮かべながら言う。
「そうか。それは残念じゃったのう」
 小忠太はにべもなく言うと続けて、
「じゃったらその悔しさを糧にしてより一層精進することじゃ。文武の道に終わりはない。死ぬまで修行あるのみじゃけぇのう」
 と言ってやさしく微笑んだ。
「はい。わしは無論そのつもりでありますけぇ、これからもより一層精進したく存じとります」
 晋作も小忠太に微笑む。
 
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