第14話 七夜の祝い

文字数 1,016文字

 それから間もなく高杉家に待望の第四子が誕生した。晋作の期待空しく性別は女の子であったが、五体満足健康そのものであった。
 そして赤ん坊が生まれてから七日目の夜に、高杉家の座敷にて七夜の祝いを行い、その祝いの席で小忠太から赤ん坊の名を「光」と書いて「みつ」とすることにしたと正式に発表された。
 七夜の祝いには、体調が優れずまだ母屋にいる道を除いた高杉家の面々の他、南亀五郎と今年で七歳になる弟の貞助、小忠太の妹で亀五郎・貞助兄弟の母親である政とその夫の杢之助、さらに道の父で晋作の外祖父にあたる大西将曹を始とした大西家の面々も祝いの席に参加して膳を取り囲んでいた。
「今回も無事子供が生まれてよかったですね、義兄上」
 杢之助はうれしそうに言うと膳の上に用意された赤飯に箸をつけた。息子の亀五郎と貞助は普段ありつけない鯛を必死になって頬張っている。
「全くじゃ! なかなか生まれてこんけぇ、一時はどねーなるか心配しちょったが杞憂だったみたいじゃ」
 小忠太がいつになく満面の笑みで言う。うれしさの余り、いつもより酒を飲み過ぎたためか、その顔は少し赤くなっていた。
「じゃが高杉家は女子ばかり恵まれおって男子にはあまり恵まれんのう!」
 将曹は大酒を食らい、べろんべろんになっている。
「私も本当は男子が生まれてくることを望んじょりましたが、無事生まれてきたけぇそれで良しとしたいと思います」
 小忠太は微笑みながら言った。
「晋作も下に弟が欲しかったじゃろう?」
 将曹が隣にいる孫の晋作に顔を向けて言うと、強烈な酒のにおいが晋作を襲う。
「欲しかったですが私も無事生まれてきてくれたけぇ、それで良しとしたいと思います」
 晋作は酒臭さに耐えながら、うれしさと残念さが複雑に入り混じったような表情で答えた。
「まあ、そう気を落とすな! 剣術修行の相手は儂がしちゃるからのう!」
 将曹は豪快に笑い飛ばしながら、酒に酔った勢いで着物の袖をめくって腕を誇示する。齢はもう五十を当に過ぎていたがその腕の筋肉はたくましく、太かった。
「ありがとうございます。ぜひ爺様と手合せできればうれしいです」
 晋作が礼を言うと、将曹はついに酔いつぶれたのか、「どさっ」と音を立てて膳の上に倒れ込み、そのまま爆睡した。
「全く、義父上は酒に弱いくせに豪傑を気取って大酒を食らうからこねーなことになるんじゃ!」
 小忠太は小言をぶつぶつ言いながら晋作に手伝うよう促し、将曹を奥座敷へと運んだ。


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