第12話 三種の神器

文字数 1,812文字

「もー。せっかくシャワー浴びたのにぃ。マジ、ガン萎えぇ」カミは服を着替えながらも、相変わらずハイテンションだ。先ほど強姦まがいにあったことは、大したこととも思っていなさそうだ。ただ、床でうめいているデブの悪口を言いまくっている。
 テトラは、誰かと電話していた。俺の倒した男たちがノソノソと動き出す。
「ヤス」逃げ出そうと扉まで四つん這いで移動していた男は、テトラに捕まり、何かを言われている。ヤスは頭を押さえ、痛みに堪えながら、不承不承という態でうなづいた。
 俺とは目を合わさない。俺は、自分の目つきが、母のツレたちと同じになっていると感じた。爽快感。ヤスは土下座した後、ハイハイしながら、倒れているデブと、うめいている長髪の男を床に並べた。
「後始末よろー」テトラは電話を切った。
「じゃ、行くか」
「うん!」
 3人の怪我についてはどうでもいいようだ。準備を終えたカミは、嬉しそうにテトラにしがみつく。俺は、準備するほどの荷物を持っていない。着替えだけは済ませて、2人の後についていく。そのままホテルを出る。
 外はすでに明るい。俺はスマホを見た。朝の11時。気温は初夏そのものだ。だが、東京はビルで囲まれている。真昼近くでも建物の影がある。
 人間は、たった一日でも進化する。昨日までの俺は、一関のことを都会だと思っていた。だが今は、一関が小さな地方都市に過ぎないということがはっきりと分かっている。もう、あの小さな町では物足りない。さらなる欲望を知ってしまった。何だか不思議な気分だ。
「じゃ、学校行ってくんね!」
 学校? 言われて俺は、夢から覚めた気持ちになった。そうだ。本当なら、俺も学校に行っている時間だ。なんせ今日は、月曜日なのだから。
 現実に返る。同時に、非現実。目の前で、カミが、テトラの頬にキスをしている。好きな人がキスする場面を見せつけられている。けれども、これが都会人の日常なのだ。俺が一関で母とツレに怯えていた間、彼らはいつも、こうして過ごしていたのだ。
「パブはこれからどーすんだ?」テトラが聞く。
「これから行くとこあんだ」ちょっと不貞腐れて俺は答えた。
「じゃ、また後でだな。三種交換しよーぜ」
 三種こーかん? カミとテトラはスマホを出した。分からないが、俺も合わせる。
「とりま、Zenlyからね」
 ゼンリー?
「はにゃ? 知らねーの? Zenly、インスタ、LINE。三種の神器、これ、界隈のジョーシキ。覚えときー」テトラが笑う。
 カミは、テトラに対し、少し気分を悪くしてくれた。
「いーじゃん。とりま、インストールしてもろて。大丈夫そ?」LINEはやっていたので、他の2つをインストールする。この待たせてしまう時間が凄く罪悪感に苛まれる。だが、こういう時ほど俺は、面白い話を喋ることが出来ない。
 スマホの画面を見るために、カミが近寄ってくる。俺の腕を引っ張って下げる。カミの性的な匂いが、俺の性欲を刺激してくる。昨日は凄かった。頭がピンク色に塗り替えられていく。
 俺は、股間の膨らみを隠すためにしゃがみ、「インストールが終わる前に早くおさまれ」と必死で念じた。こうして俺の中での戦いはあったが、なんとか三種の神器の連絡先を交換し終えた。
「テトラはどこ行き?」
「ビブ横。夜には戻る系」
 ビブ横が何かは分からない。だが、カミの目が尊敬で輝いている。きっと凄い所なのだろう。俺は、カミが他人に好意を抱いている姿は、あまり見たくなかった。それと、これだけムラムラしていると動きづらい。動くだけで擦れて、また勃ってしまいそうだ。一度、どこかで処理をしたい。
「昨日はありがと。またね!」腰に巻いたワイシャツで股間を隠しながら、俺はとりま、2人から見えない場所へと隠れた。
 さて、まずはトーホーシネマズだ。トイレの場所は覚えている。俺はそこで、昨日のことを思い出しながら、思う存分、3回ほど射精した。これで少しは持つだろう。全く。昨日のことを考えると、すぐに勃起してしまう。これから生活保護をもらいに行くというのに。
 とりあえず、ズボンのチャックは閉められるようになった。俺は、チャックに巻き込まれないように気をつけてイチモツをしまい、ネットで場所を調べた後、一人、区役所へと向かった。大人の階段を、エレベーターの速度で昇っている。俺は、自分の身長に見合った大きな男になっているような気がして、何だか自分が誇らしく思えてきた。
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