第46話 バズリマクリスティ

文字数 1,449文字

 自分の夢に繋がること以外に興味がなくなった俺は、それでも何となく、仲間たちとつるんでいた。他に友達もいないし、興味はなくとも情があるからだ。
 カミは、アイドル事務所に言われて、過去のSNSを全て消した。男関係を断つために、Zenlyも消去した。もう、いくらスマホの画面を覗いても、カミのアイコンは動かない。俺は寂しかった。だが、同時に安心もした。アイドルは、努力と可愛さを見せる職業だ。俺たちのような奴らとは付き合わない方がいい。共に光り輝く場所で会う。その時を楽しみにするだけだ。
「おらっ!」
「おらっ!」
「逃げんじゃねぇよ!」
 夜の広場に、ヤスやコーメーの声が響く。
「やっちゃえ!」
「ははは」エンプティやダラクちゃんもいるようだ。変なテンション。
 そういえば。俺は思い出した。ポパイたちは、合法ドラッグだったHHCが間も無く規制される、という話をしていた。今日は代わりに、THCOとTHCVを試してみる、と言っていた。おそらく、それが変な方向にパキってしまったのだろう。
 暴力沙汰になって、誰かが犠牲になったら可愛そうだ。警察を呼ばれても面倒だ。しょうがねぇな。俺は、騒ぎのする方に行った。 
 みんなが騒いでいる中心を見る。テトラが、おじいさんを蹴飛ばしている。服装からも分かる。60歳くらいの痩せたホームレスだ。おじいさんは倒されたが、必死に逃げようと這う。テトラは後ろから襲い掛かり、おじいさんに足関節をかけている。
「やめろよ」もう一人のホームレスが、テトラを止めようとしている。
 あっ! 俺は、その顔に見覚えがあった。シモダさんだ。
「うるせえ」シモダは、ポパイに突き飛ばされた。
 俺は急いで駆け寄った。
「何してんだ!」
「ちっ。学級委員かよ」エンプティが唾を吐く。
 顔を整形しまくっている少女で、背の低い男に人権はねぇとSNSで言ったことでバズった少女だ。それ以降、不細工に人権はねぇ。一重に人権はねぇ。Aカップに人権はねぇ。だったら手術しろと言って、整形蹰から圧倒的支持を得て、自分が他人から承認されていると勘違いしている。背が高い男が好きらしく、一度、俺は告白されたことがある。だが、友情と恋愛感情のバランスは難しい。断って以降、異常に、俺とカミを目の敵にしている。
 たった2年足らず。だが俺は、少年から青年になっていた。外見があまりにも違う。シモダさんは、俺のことが分からなかった。ただ、「デカい敵が来た」と慌てている。
「大丈夫ですよ」俺は、全員を無理やり止めた。俺が強いことはみんな知っている。パキってるとはいえ、まだ続けようとする仲間はさすがにいない。喧嘩をしても、絶対に敵わないからだ。
「解散。かーいさーん」白けた顔をして、コーメーが手を振った。
 コーメーは、公明正大という言葉の意味を、声がデカいことだと勘違いしている男だ。すぐに「偽りでもいいから愛してくれ」と言って、レイプまがいのことをする。趣味はストーカーとキメセク。ハツジからするとキモ大学生だが、外見がちょうどいいのか、女からの人気は割と高い。
 ヤスは、自分の持っていたタバコの箱を、倒れているホームレスに投げつけた。入っていたタバコが散らばる。
「アウシュビッツでも、タバコは貨幣と同じ価値を持っていたんだぜ。これやるからチャラな」
 コーメーが動画を撮る中、最後に、ブンブンシティーがヤリラフィーを踊る。早速、TikTokに投稿だ。この動画は、「面白い」と「酷い」の狭間で炎上し、バズりにバズリマクリスティとなった。
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